スーッ、パッチン! 引っ張ったり閉じたりする時に、音がすることから名づけられた、パッチン絵本。その魅力は、なんといっても簡単で楽しい“しかけ”。きっかけは、児童図書の編集者である喜入今日子さんが、2000年にイタリアで行われたボローニャブックフェアの会場で、しかけ絵本を発見したことだった。
「スライドして絵変わりする様子が、赤ちゃんの大好きな遊び、いないいないばあと似ているんです。一気に“ばあ!”とするパターンもあれば、顔をチラッ、チラッと見せながらのパターンもあるように、いろいろ遊べる。ロングセラーになるような絵本を作りたい、と思っていましたから、絵本作家のきむらゆういちさんに即コンタクトを取りました」(喜入さん)
きむらさんは、『あらしのよるに』シリーズ(講談社)や『あかちゃんのあそびえほん』シリーズ(偕成社)など、数々のベストセラーを生み出している人気作家だ。
「赤ちゃんに大人の理屈は通用しませんから、たとえば追いかけっことか、かくれんぼとか、本能に訴える単純なストーリーにしなくてはいけないんですね。悪役が出てくるお話も冒険物語も無理。小さい子が読む絵本ほど、テーマが限られてくるんです。しかも、しかけ絵本にしたいというと、動きも限られるでしょ。やりようがないのが大変でしたね(笑い)。何通りもアイディアを出して、試作品もいくつも作りました」(きむらさん)
製本になるまでの苦労も大きかった。パッチンと引っ張った時、紙のきめが細かくないと紙が裂けて壊れてしまうので、赤ちゃんが多少乱暴に扱っても壊れないような紙を選ぶ。しかけ部分は手作りしなければならないので、コストの関係で海外生産にする…。
「印刷工場も中国からタイ、ベトナム…と転々としていきました。品質の管理も大変で、乱丁はまだいいほうでしたね。ページは全てPP(フィルム状)加工をしてあるのですが、南国ならではなのか、蝿や蚊がそのままプレスされていることもありました(苦笑)」(喜入さん)
やっと作った絵本だったが、発売当初は“しかけ絵本は破本が多い”“シュリンク(ビニール包装)すると中身が見えない”と書店でも苦戦を強いられていたという。
「そんな時、“この絵本の素晴らしさは、書店に見本を置かないとわからない”と、販売担当に強く提案してくれた児童書担当者がいらしたんです。その声をもとに最初は10店舗くらいに見本を置いたのですが、口コミで徐々に売り上げが伸びて。見本を希望する店舗がどんどん増えていきました。いい本でも認知されない本っていっぱいあるんですよね。書店さんと販売のかたの“売る力”があったおかげだとつくづく思っています」(喜入さん)
気づけば、シリーズで100万部を突破。「本を買わない時代に、100万人の人が買ってくれるなんて異常なことですよ」ときむらさんが笑えば、「これからもロングセラー絵本の成長を見守っていきたいですね」と、喜入さん。みんなの愛情が詰まった絵本は、プレゼントにもパッチンとハマりそうです!
※女性セブン2014年11月6日号