その点、デンマーク出身の社会保障学者エスピン=アンデルセンは、就学前の学習環境を同質化することが最も社会的な〈投資効果〉が高いと説く。つまり乳幼児期の生育環境の充実が後々良質なタックスペイヤーを生み、犯罪率の低下など、ひいては自国社会全体に貢献すると言うのである。
「『教育は親がすればいい』という古臭い精神論にはこちらも“根拠”で対抗します」
本書の最終目的はいわば、子どもを家族から〈解放〉することにある。自分の家族さえよければいいという〈カゾクチュー〉な親が増える現代だからこそ“社会の子ども”という視点が必要であると説くのだ。
「実は子どもにとって家族は大事な存在であると同時に〈重圧〉でもあるんですね。誰かを大学に入れるために別の兄弟が犠牲になったり、経済的に苦しい子ほど年金制度からはじかれた親の扶養まで背負わされる。
特に少子高齢化が進む今、高齢者だけでなく、未来を担う世代への投資も同様に議論されていいと僕は思う。裕福な高齢者に我慢してもらった分を子どもに回すとか、その程度でいいんです。当の彼らはどんな目に遭っても親を責めることはなく、貧困状況まで自分に非があると言う子もいる。彼らをこのまま放置するのか、〈家族依存社会〉から解放するか、決めるのは皆さんです」
貧しい親や虐待する親はどの時代にも必ずいる。自らを否定する痛みを伴う自身の親の告発に押し黙る子どもたちの「声なき声」にどう耳を澄ますか、その裁量こそが今問われている。
【著者プロフィール】
山野良一(やまの・りょういち):1960年北九州市生まれ。北海道大学経済学部卒業後、神奈川県庁入庁。児童福祉司として児相等に勤務。2005年、休職制度を利用してワシントン大学に留学(ソーシャルワーク修士)、米児童保護局等でインターンを経験。帰国後復職、2010年に退庁し、「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークを組織。千葉明徳短期大学保育創造学科教授。著書『子どもの最貧国・日本―学力・心身・社会におよぶ諸影響』はロングセラーとして版を重ねる。170センチ、63キロ、O型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年11月21日号