「僕の勝手なイメージでは、開成が保守本流なら、石を投げるのが麻布で、OBも変な人が多い(笑い)。原発関連企業への融資拒否を表明した城南信用金庫の吉原毅理事長も麻布出身ですし、常に自分は何者かが問われる分、独特の〈緊張感〉やしんどさも感じました。
つまり僕は麻布の応援団というわけではなく、なぜ僕はこの教育を受けられへんかったんやという怒りが原点(笑い)。私学でも公立でも良き教育なら普遍化されるべきで、そのために麻布の何が優れ、何が問題かを公開したかったのです」
そう。好奇心にとことん向き合う教育が変だとしたら、今の普通こそ変なのだ。
「特に教育は時の政治に振り回されてきた歴史もあり、しかも結果が出るのは10年、20年先。その間にも人間が育っていく重みと向き合う人が本物の教師だと思うし、氷上先生みたいな教師に出会えると僕は純粋に嬉しくなるんです。若い世代をこの教師たちが育ててくれるなら未来は明るいなって」
辛酸なめ子氏が〈麻布病〉と帯に至言を寄せるように、良くも悪くも麻布は麻布。その変でいて、やけに感動的な魅力に、受験生の親ならずともハマること必至だ。
【著者プロフィール】神田憲行(かんだ・のりゆき):1963年大阪生まれ。小中高と奈良で育つ。関西大学法学部卒業後、故・黒田清氏の事務所を経て独立。1992年より1年間ベトナムで日本語学校教師を務め、帰国後は高校野球を20年以上取材。「教育がいかに大事か、本当に子供のためを思う指導者たちに教えられました」。著書に『ハノイの純情、サイゴンの夢』『97敗、黒字。楽天イーグルスの一年』『八重山商工野球部物語』、共著『横浜vs.PL学園』等。175cm、75kg、O型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年12月12日号