政権を握った経験がない第3極は、もしかしたら同じ歌でも上手に歌える可能性はある。維新の党の江田憲司共同代表が「岩盤規制の打破は私たちでなければできない」と強調するのは「もっと上手に歌える」という話である。問題は国民がそれを信じるかどうか、だ。
自公政権のほうは歌の中身をどんどんグレードアップしている。集団的自衛権の容認は典型だ。憲法の有権解釈権は政府にある。官僚機構にすぎない歴代の内閣法制局が反対してきたのを、内閣が乗り越えて容認したのは政治家主導そのものではないか。
解釈変更の閣議決定だって本来、法律改正のために必ず必要な手続きではない。そうしたほうが透明で、より国民に丁寧な手法だからだ。手続き論でいえば、野党が「閣議決定などとんでもない」と批判できた話ではないのだ。
民主党が解散にあわてて増税先送りを容認したのはみっともないが、まあ良しとしよう。集団的自衛権が問題というなら、中国や北朝鮮の脅威をどうみるのか、日本の平和をどう確保するのか、ぜひ具体的に語ってもらいたい。
安倍政権の前には「決められない政治からの脱却」が叫ばれた。いま脱却しつつある。5年前に自分たちが言い出した政治家主導や官邸主導の中身が問われているのだ。
選挙制度の見直しはもちろん必要だ。与党が強すぎるのは小選挙区制度の下で死に票が増えてしまうのも理由の1つである。1票の格差是正を目指した区割りの見直しだけでなく、そもそも現行制度でいいかどうか。全面的な比例代表制も含めて、総選挙後には徹底的に議論すべきだ。
■文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2014年12月12日号