同じく、思わせぶりなシーンがあまりに多くて気になったドラマもありました。

 12月22日・23日、NHKで2夜連続放送された特別ドラマ『ナイフの行方』。大御所・山田太一氏の書き下ろしということで注目され、配役や番宣にも力が入っていました。

「無差別に人を刺そうとナイフを懐に入れた青年・次男(今井翼)は、たまたま目が合った老人・拓自(松本幸四郎)に組み伏せられ、足の骨を折られて自宅に連れ込まれる。真意をいぶかる次男に、「骨折が治るまでだ」と拓自は亡き妻の部屋を次男に明け渡す。自分自身のことも話さない、次男のことも聞かない、拓自との不思議な同居生活が始まる」(NHKによる紹介)。

 突然起こる謎めいた出来事。見知らぬ老人に足を折られた若者が、老人の家に入り込み同居。そうなった事情も動機も、はっきりと語られないままドラマはどんどん進む。台詞も謎めてばかり。「知り合いだが友達とはいえない」「30年ぶりに変な男が訪ねて来た」「自分のことは話さないようにしている」……思わせぶりな要素がたっぷり。

 もちろん、犯人捜しの推理ドラマや刑事サスペンスものという前提ならば、それでいいでしょう。しかし、このドラマは「若者の孤立感」や「高齢化社会の孤独」といった社会的問題を扱う作品。一人暮らしの高齢者の内面に向き合おうとした意欲作。そうした社会派ドラマに、必要以上の「謎解きの応酬」は見ていてちょっとつらい。長時間つきあわされているうち、イライラしてきてしまう。

 それはひとえに、脚本家だけが話の全体を知っていて、視聴者は断片ばかり見せられるから、です。謎を小出しにして、次のシーンへと引っ張っていこうという趣向? いわば、クイズ仕掛けのドラマ? 「神」の視点に立つ作家から見下ろされ、作家のいいように操作されている視聴者、といった苦い印象ばかりが残りました。

 今期の秋ドラマで人気を集めた『きょうは会社休みます』(日本テレビ系水曜日午後10時)のように、今の時代は作り手も見ている人も、フラットな位置に立って、互いの共感を響きあわせたり、対話することが求められているのでは? そう感じたのは、私だけでしょうか。

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