遠く離れた東京都港区赤坂でスペイン料理店「セルベセリア グランビア」を経営する金子裕二氏も、仙北市で新たな挑戦を試みる一人だ。看板メニューは自家製生ハム。金子氏は田沢湖高原で生ハム工房を運営して、年間1200~1500本の生ハムを生産しており、これをレストランでも提供している。金子氏の構想は、「生ハム工房をさらに拡大し、地場で豚の飼育・放牧から一貫して行ない、田沢湖周辺を生ハムの一大産地にしたい」というものだ。
ただ、放牧を行なおうとしても、近辺には国有林が多い。日本の林野の3割を占める国有林の有効活用は、かねてより指摘されているが、現状では開発が厳しく規制されている。そこで金子氏は国家戦略特区を活用して規制改革を実現できないかと考え、市長に提案したのが一連の動きの起点にもなっている。金子氏は、力強く語る。
「観光を拡大するためにも、その土地のおいしい『食べ物』が欠かせません。国家戦略特区をばねに、皆で地域全体をもりあげていきたい」
仙北市から提案された「国有林の民間開放」は、既に実現に向けて動きつつある。10月に臨時国会に政府が提出した国家戦略特区法案では、国有林野の民間貸し付けの対象面積拡大などが盛り込まれた。衆議院解散に伴って法案は廃案となったが、次の通常国会では規制改革が実現するはずだ。国の後押しで、仙北市の新たなチャレンジがさらに加速していくことを期待したい。
※SAPIO2015年1月号