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【著者に訊け】中村文則氏が謎のカルト集団を描く『教団X』

【著者に訊け】中村文則氏/『教団X』/集英社/1800円+税

 例えば人間や世界の成り立ちについて、「今」だから書けることは何か。現時点でのあらゆる知見を網羅した集大成が、本書『教団X』であると中村文則氏は言う。

「仮に文学の普遍的目的が人間存在の解明にあるとして、ドストエフスキーには最新の脳科学も宇宙理論も書きようがない。その点、人間とは何かを科学的根拠をもって書けるのが僕ら現代作家の強みと思います」

 物語は突如失踪した恋人〈立花涼子〉を追って宗教団体に潜入した〈楢崎〉を軸に展開。そもそも〈神はいるのか?〉という問いを考える会を主宰するアマチュア思想家〈松尾〉や、謎のカルト集団・教団Xを率いる〈沢渡〉。さらに涼子の義兄で幹部の〈高原〉を慕う〈峰野〉と接触した彼は、やがて公安や国際テロ組織を巻き込んだ事件の渦に呑み込まれていく。

 世界的に蔓延する格差や貧困。テロや戦争へと人々を暴走させる集団心理など、時代が進み、科学が進む21世紀、文学もまた新たなステージへ進もうとしていた。

 芥川賞受賞作『土の中の子供』や2009年のベストセラー『掏摸』(スリ)でこの世の悪を描き切り、国際的な評価も高い中村氏。本作は英訳刊行も予定される中、あえて自身の問題意識をストレートにぶつけた作品だという。

「地下鉄サリン事件が起きて今年で20年が経ちますが、当時僕は高校生でした。世の中に不満を抱く個人が犯罪に走る心理はよくわかる。ただオウムのように集団で牙を剥く人たちを僕らの世代は初めて見たし、衝撃でした。

 個人が集団に呑み込まれ、思想や信条に呑み込まれる心理、現象をずっと書いてみたかったんですね。まして宗教の過激派やネトウヨなど、今や原理主義的勢力の台頭は世界的な問題ですし、僕の最長かつ代表作のつもりで、今持てる力の全てを注ぎました」

 読者は序盤、松尾の会に潜入した楢崎の耳を借りて、〈教祖の奇妙な話〉を聞くことになる。仏教の起源や他宗教との相違、デカルトの〈我思う、ゆえに我あり〉を約2千年も前に否定したブッダの教えが最新の脳理論とほぼ重なることなど、知的にして俗な松尾老人の魅力にまずは引き込まれる。

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