私たちを部屋に案内してくれた。8畳ほどのリビングには、テレビとテーブル、ソファが置かれており、奥には2つの部屋がある。
この部屋に滞在する上海からきた20代後半女性に、話をきくことができた。
「入国審査の時にばれないか、すごく緊張したわ。あれは妊娠5ヶ月目の頃。もうおなかがふっくらしていましたから。出産後も併せて6ヶ月ほどここで暮らす予定で、費用は約10万ドル(1200万円)。中国の高級な病院で産むことを考えれば安いものよ」
饒舌に話していたが、夫の話題を振ると表情を曇らせた。
「彼が子どもに米国籍を取らせた方が大学入試や仕事探しに有利だ、というのでここで産むことにしたの。でもね、彼は仕事が忙しくて中国を離れることができないの。出産に立ち会ってくれないみたいだから、心細いわ」
部屋を後にすると、ウェンディーが私たちにささやいた。
「彼女は正妻じゃなくて愛人なの。相手は、だいぶ年上の地方政府の役人みたい。ここには彼女に限らず、政府の偉い人の愛人が結構いるのよ」
愛人に子どもを産ませて米国籍を取らせた上で資産を移し、最後は本人も移民する。これは「裸官」の典型例だ。
裸官とは、賄賂などの不正収入を得て、資産を海外に移す党幹部たちを指す。幹部だけが中国内に残ることから、そう名付けられた。
裸官たちが資産を移す手段はいくつかある。子どもを米国で出産する。子女を米国に留学させる……。愛人を介在させる方法もその一つだ。
※SAPIO2015年4月号