ドライバーの高齢化が進み、トラック業界における人材不足は深刻な状況である今、“トラガール”と呼ばれる女性のトラックドライバーに注目が集まっている。
3月上旬の平日、午後5時、ロングヘアをなびかせ、細身の山本真理子さん(38才)が出勤してきた。ヤマトホールディングス傘下のヤマトマルチチャーター本社(京都市)に勤務する、10tトラックの長距離運転手だ。家に帰れば4人の子供が待っている“トラママ”だ。
324人いる同社のドライバーのうち女性はたった3人。真理子さんのトラック運転手歴は13年になる。当初は日勤だったが、2年前から長距離を担当する唯一の女性になった。長距離とは片道300km以上の距離を走る業務を指し、真理子さんは3日間勤務して1日休みというローテーションで仕事をこなす。
「父親がトレーラーの運転手だったので、私が育ったのは運送会社の社宅。トラックは身近な存在でした」
この日、これから京都で荷物を積み、大阪の豊中を経由して福井、石川、富山とターミナルを回り、道の駅に車を停めて仮眠をとった後、愛知、大阪と走るという。京都の自宅に帰るのは、3日後の朝だ。
「長距離を始めるときに、長女に相談したんです。そしたら『いいんじゃない』と。長女は高校生でしたが、本当によく協力してくれました」
真理子さんのもとには、「今、保育園から帰ったよ」、「夕飯食べたよ」など、その都度、長女からメールが届く。朝、「起きたよ」とメールが来ないと真理子さんが電話で起こすこともある。
「そんなに気になるなら、毎晩家に帰って家族と過ごせる仕事をしたらいいのに、と言われることがあります。でも私が家計を支えているので、収入を安定させるためにも長距離でしっかりと働く方が大事だと思ったのです」
トラックドライバーの収入は会社によって異なるが相場は300万~700万円ほどだ。もちろん、長距離を走り労働時間が長くなればそのぶん収入は増えるが、安全を担保するため運送会社はトラックドライバーに休憩・休暇を与える必要がある。
そうして長距離の道に立った真理子さんだが、「長距離」という仕事の特性上、すぐに悩みを抱えることになった。
当時末っ子はまだ1才。仕事が明けて久しぶりに家に帰ってきて抱きしめると泣かれるなどつらい思いをしたことがあった。次女の小学校の行事には長女が代わりに出席してくれたこともある。しっかりものの長女は今年高校を卒業した。
「娘には負担をかけています。それでも彼女が頑張って高校を卒業してくれてホッとしました。子供が4人もいると、ひと月に食べるお米が30kgになることがあります。これから息子たちが大きくなればもっともっと増えるでしょう。子供たちにお腹いっぱい食べさせて、元気でいてほしい。日々、迷いながら仕事をしていますがそれがこの仕事をやっている意味でしょうか」
女性トラックドライバーのための労働環境は、まだまだ改善すべき点はあるという。配送先の営業所では男性のトイレは駐車場の近くにあるのに女性用は事務所の奥にあって使いづらいなど、不便を感じることは多い。また夜中に高速道路のパーキングエリアに車を停めてトイレに行くとき、辺りは真っ暗で他のドライバーは男性ばかり。恐怖を感じて我慢してしまうこともある。
真理子さんの場合、4時間ごとに30分の休憩をとることが定められており、パーキングエリアに駐車して車中で休むことがほとんどだ。
ヤマトグループが2013年に稼働を開始させた物流ターミナル、羽田クロノゲート(東京・大田区)と厚木ゲートウェイ(神奈川・愛甲郡)には女性トラックドライバー専用の浴室と仮眠室ができた。
「私も厚木に行ったときは使っています。このような環境整備が他の施設でも進むことを期待しています。
また、育児との両立を考えると、公立の夜間保育園がもっと必要です。国を挙げて整備しなければ女性ドライバーは増えていかないと思います」
真理子さんの将来の夢は、残りの3人のきょうだい全員を最低でも高校までは通わせること。そのためには「定年まで長距離ドライバーとして働いていきたい」、そう笑顔で語った。
※女性セブン2015年3月26日号