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「兄弟仲よくお母さんを助けよ」 余命短い夫と息子の約束

「川の氾濫が土を掘って田畑を耕すように、病気はすべての人の心を掘って耕してくれる。病気を正しく理解してこれに堪える人は、より深く、より強く、より大きくなる」とは、スイスの哲学者・カール・ヒルティの言葉。夫の病と向き合い、支え合った46才パート女性の家族のエピソードを紹介します。

 * * *
 去年の春まで、会社員の夫とふたりの息子を持つ主婦だった私。高校生だった長男はおとなしくて手がかからないのですが、一方の中学生の次男は反抗期なのか、口答えをしたり、壁を蹴って穴をあけるなど問題ばかり。私が言ってもなかなか言うことを聞かず、そんな時は夫に叱ってもらいました。

 しかし突然、夫に胆管がんが見つかったのです。すでに転移していて手術もできない。余命半年だと医師から聞かされた時は、腰が抜けて、私が夫に支えられたくらいでした。

 食が細くなっていることはわかっていたのに、なぜもっと早く気づいてあげられなかったのか…。

 泣きくずれる私に、夫が「ごめんな」と背中をなでてくれました。私たちは、子供たちに病気のことは内緒にしようと決めました。夫はぎりぎりまで、子供たちと普通に接していたかったのです。

 1か月後、夫は会社を辞めて入院。みるみるうちに体調が悪くなり、寝たきりになりました。子供たちも、夫が痩せていくのを見て、がんだと気づいたようでした。寝たきりになって少したった時、夫は病室に子供たちを呼び、がんで自分の命が長くないことを告げました。

「兄弟仲よく、お母さんを助けてやってくれ」

 夫がそう言うと、次男は夫の手を取り、泣きながらうなずいていました。ところが、長男は「できない」と答えるのです。

「ぼくはお母さんのことなんて絶対助けないからな!」

 長男が初めて声を荒らげて首を振りました。

「頑張れ。おれも病気と闘うから」

 夫はそう言って、細くなった手を長男の肩に乗せていました。

 夫はそれから半月後に亡くなりました。次男の反抗はなくなり、長男は夫の代わりに、私たちを支えてくれています。夫が遺してくれた言葉と、それを守ってくれている子供たちが、私の誇りです。

※女性セブン2015年4月2日号

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