かつて「カリスマ美容師」が美容師免許を持っていなかったことが大問題になったが、そうした事件も免許が実用性を伴っていないことの皮肉な証明である。
試験を実施するのは理容師美容師試験研修センター。理事長は厚生省出身で、常勤職員には3人の国家公務員出身者がおり、昨年4月には神奈川県の保健福祉局生活衛生部長が常勤顧問に就いている。試験事業、免許登録事業などによって約10億円の収益がある。
同センターは「試験内容は衛生管理や実技の専門家によって構成される試験委員が決めている。委員は当センターが選任し、試験内容は委員の議論によって決まっている」と答えるが、試験問題は養成施設で使われる教科書の範囲から出題され、その教科書を作るのも日本理容美容教育センターという別の天下り団体(常勤の専務理事が元東海北陸厚生局健康福祉部長)だ。
理美容業界は旧態依然とした規制が蔓延(はびこ)る業界で、「安倍首相が美容室でカットしているのは違法ではないか」とネット上で話題になったのもその典型例だ。1978年の厚生省局長通知で「美容師が髪を切るのは女性客」との法解釈が示され、それに基づいて保健所が指導に入る例もあるという信じられないほど前時代的な制度運用なのである。そうした姿勢が業界全体の未来を閉ざしている。
※週刊ポスト2015年4月3日号