官僚はたとえ屁理屈でも一見、もっともらしい答弁をする能力が際立っているが、さすがにこれは珍回答である。私は議事録を読んで何度も爆笑してしまった。
そもそも法律には、美容院と理容室を併設してはいけないという明文規定がない。にもかかわらず「同じ建物の中で1つのサービスをやること自体が(ヒゲ剃りのような)資格外の行為を助長する」と強弁している。なぜ、厚労省が抵抗するかといえば、業界からの政治的圧力が強いからだ。
理容室は年々、減少の一途を辿っている。1992年度には全国で14万3000店あったが、2012年度には13万店に減った。美容院は18万8000店から23万1000店に増えた。美容院や格安店に客をとられてはかなわない、というのが本音なのだ。美容院も現状維持を望んでいる。
だが、はたして重複届けや混在勤務を認めたら本当に客が減るだろうか。むしろ相乗効果で新たな客開拓につながるかもしれない。
理容室の高齢化問題もある。理容師の息子や娘が美容師になった場合、重複届けや混在勤務を認めれば、美容師の後継者がそのまま理容室も営業できる。そもそも理容師と美容師という2本立ての資格制度でいいかどうか。客の立場に立って見直すべきだ。
■文・長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2015年5月8・15日号