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救急搬送の敗血症患者3人に1人死亡 日本発の革新技術に期待

 敗血症は、手術や抗がん剤治療、あるいは事故や、やけどなどで免疫が低下したときに細菌感染し、細菌が血液に入って全身を巡ったときに起こる病気だ。敗血症で起こる様々な症状は、細菌そのものよりも、細菌を排除するために産生されたTNF(腫瘍壊死因子)などのサイトカインの暴走によるものであることがわかっている。

 サイトカインの暴走で、発熱やだるさが起こり、症例の中にはショックや多臓器不全などを起こし、死亡することもある。敗血症で救急搬送された患者のうち、3人に1人が亡くなるという報告もある。

 TNFなどのサイトカインだけを血液中から排除できれば、敗血症の症状が抑えられ、その後、抗生物質での治療も可能になる。しかし、今まではその技術がなかった。敗血症の新治療技術を開発した神奈川県立がんセンター臨床研究所の辻祥太郎主任研究員に話を聞いた。

「この技術は、私が発見したヒトインテレクチンというタンパク質が、ある低分子と結合することを見つけたことから開発が始まりました。インテレクチンと低分子の結合は、非常に強力で選択性の高いものです。そこで、この性質を使用して血液の中からTNFだけを取り出すことができるのではないかと考えました」

 敗血症患者に、TNF受容体と融合したインテレクチンを注射して、人工透析の要領で患者の血液を体外に出し、インテレクチン吸着樹脂を通す。これでTNFが結合したインテレクチンだけを除くことができ、そのほかの成分は、もとの体内に戻る。このようにして敗血症ショックの原因となるTNFだけを取り除くことが可能となる。

 インテレクチンについては、石綿が原因である中皮腫(ちゅうひしゅ)というがんを診断する腫瘍マーカーとして検出試薬が発売され、医療現場で使われている。インテレクチンとTNF受容体はヒト由来で、また、低分子の樹脂も身近にある成分なので、安全性が高く、臨床応用は比較的容易だと考えられている。

 この新技術は、今年3月5日に、神奈川県立がんセンターと東京大学から共同で特許出願された。また、4月から発足した日本医療研究開発機構(AMED)の橋渡し研究の対象となっている。

 神奈川県立がんセンター臨床研究所所長で、東京大学の今井浩三特任教授に聞いた。

「現在は試験管での実験段階ですが、今後は動物実験で有効性と安全性を確認し、その後、ヒトに対する臨床試験を実施します。平成29年には、臨床試験が開始できる可能性があります」

 TNFは、関節リウマチや乾癬の原因であり、取り除くことができれば、治療効果が期待できる。さらに、受容体部分を変えれば、ウイルスの治療にも活用が可能だ。日本発の革新的医薬技術として期待されている。

■取材・構成/岩城レイ子

※週刊ポスト2015年5月8・15日号

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