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島崎藤村の恋文「わたしたちのLifeを一つにするといふこと」

『若菜集』の詩人や小説『破戒』の作家として知られる島崎藤村。先妻と死別した後は長く独身を続けていたが、藤村自ら発行した女性啓蒙雑誌『処女地』に参加した加藤静子と出会い、結婚の意思を固めた。

 大正13年(1924年)春、藤村は静子にこんな手紙でプロポーズしている。

〈わたしたちのLifeを一つにするといふことに心から御賛成下さるでせうか。それともこのまゝの友情を―唯このまゝ続けたいと御考へでせうか〉

 学習院大学名誉教授の十川信介氏はこう語る。

「藤村は結婚という言葉を使わずに、『Lifeを一つにする』と書いています。日常生活だけでなく、文学の創作なども共にする“共同生活者”として、静子を求めたのでしょう」

 だが、藤村の求婚はすぐには実を結ばなかった。24歳の年齢差や、自分の健康問題などを考えて静子が躊躇したからだ。

 藤村の情熱がそれを上回り、静子の心を得たのはそれから4年後だった。静子が結婚を内諾した旨の手紙を受け取った藤村が、昭和3年(1928年)5月に静子に宛てた手紙は、喜びと安堵に満ちている。

〈一昨日は実に忘れ難い日でした 兄さんに大和田(うなぎ料理店=編集部注)まで御足労を願ひ皆さんの御意見をも伺つて大安心いたしました(中略)一切を有るもので間に合せるといふ古代の茶人のやうな心持でいゝと思ひます(中略)Strange existance! 実に無造作にこんなお便りを書く日の来たといふことすら私には不思儀なくらゐです〉

 結婚を機に藤村は近代小説を代表する長編の歴史小説『夜明け前』の執筆を始めた。

※週刊ポスト2015年5月22日号

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