国内

『鳥獣戯画』に西洋のステンドグラスの世界と共通する魅力

 初日だけで3000人が来場。200分待ちの日もある特別展「鳥獣戯画―京都 高山寺の至宝―」。東京国立博物館 平成館(東京・上野)で6月7日まで開催されるこの人気の特別展を作曲家・千住明さんが巡る。多くの人々を魅了してやまない、この鳥獣戯画の魅力とはなんなのだろうか?

 * * *
 国宝・鳥獣戯画は、甲・乙・丙・丁の4巻からなる日本で最も有名な絵巻物。読者のみなさんも、一度は、ウサギとカエルの相撲や、ウサギとカエルがサルを追いかけるシーンなどを目にしたことがあるはずです。でも実際は、いつ、だれが、何のために描き、どのようにして高山寺に伝えられたのか、まったくわかっていない、謎多き魅惑の作品なのです。

 順路は逆で、丁・丙・乙・甲の順。もちろん、これにも訳があります。それぞれに素晴らしい作品であることは疑う余地もありませんが、中でも群を抜いているのが、ウサギやサル、カエルたちが、人間さながらに遊戯や儀式を行う様を描いた甲巻で。

“いちばん、おいしいところを最後に持ってきて、より深い感動を味わってもらおう”という博物館の意図に、ぼくもまんまとはまってしまいました。では、一体、何がそんなにすごいのか?

 まず最初に惹きつけられたのは、動物たちの表情でした。図録などで見るより何倍も人間味にあふれていて。感情のほとんどを目と口で表現しているわけですが、だからこそ、いつまでも印象に残ります。

 今も目をつぶると、キツネの「にいっ」と笑っている目が浮かんでくるほどです。

 ストーリー性やスピード感にも圧倒されました。まるで映画やアニメを見ているような、ひとつの完成された世界観があり、その楽しさは万国共通、世界中の誰もがひと目でわかる作品になっています。文字がないのに、これだけわかりやすくなっているところは、西洋の教会にあるステンドグラスに近いといってもいいかもしれません。階級も職業もさまざまな人が訪れた教会のステンドグラスは、文字の読めない人でも楽しめるように構成されています。

 ステンドグラスは左下から順番に、鳥獣戯画は右から左へという違いはありますが、説明がいらないという点では酷似しています。

 墨と数本の筆だけで描いたファンタジックワールド。深夜、動物たちが動き出し、物語を紡いでいくおとぎ話のような世界は、古くから日本人の心を捉えてきました。その技法と構成力が、江戸時代の浮世絵に生かされ、今日、日本の文化でもある漫画へと引き継がれている。そうして考えると、日本人が鳥獣戯画に魅せられる理由もわかるような気がします。

 生き生きとした動物たちの表情にいきなり心を奪われ、場面転換として巧みに描かれた草木でスピードをやや落とし、クライマックスに向かって、一気に歩むスピードも上がっていく… それは、まさしくエンターテインメントの世界でした。

【東京国立博物館 平成館】
開館時間:午前9時30分から午後5時。金曜は午後8時まで。
土日祝は午後6時まで。(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜

※女性セブン2015年6月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

“令和の小泉劇場”が始まった
小泉進次郎農相、父・純一郎氏の郵政民営化を彷彿とさせる手腕 農水族や農協という抵抗勢力と対立しながら国民にアピール、石破内閣のコメ無策を批判していた野党を蚊帳の外に
週刊ポスト
緻密な計画で爆弾を郵送、
《結婚から5日後の惨劇》元校長が“結婚祝い”に爆弾を郵送し新郎が死亡 仰天の動機は「校長の座を奪われたことへの恨み」 インドで起きた凶悪事件で判決
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
「最後のインタビュー」に応じた西内まりや(時事通信)
【独占インタビュー】西内まりや(31)が語った“電撃引退の理由”と“事務所退所の真相”「この仕事をしてきてよかったと、最後に思えました」
NEWSポストセブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬・宮城野親方
【元横綱・白鵬が退職後に目指す世界戦略】「ドラフト会議がない新弟子スカウト」で築いたパイプを活かす構想か 大の里、伯桜鵬、尊富士も出場経験ある「白鵬杯」の行方は
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン