このニュースは、また別の観点から思いをめぐらすと、冗談ではなく、深いなあと感じるところがある。ウェアラブルデバイスが進化すればするほど、人は情報を記憶せずともその場で引き出せるようになれるわけだ。例えばそれは、腕時計型であろうが、耳栓や入れ歯型であろうが、いずれノートパソコン並みの情報端末になりえるということである。

 そうなりえたなら、学生諸君はもう、わざわざ大変な思いをして暗記勉強に励まなくてもいいのではないか。ちょっと分からない部分はウェアラブルデバイスに尋ねることにして、試験はその活用能力を測るものと位置付けてもそんなにおかしくはないのではないか。

 いや、これに関しては、面白半分に極端を述べているのではない。現に、社会に出たらホワイトカラーの多くは、始終、ノートPCやタブレットやスマホなどを持ち歩き、仕事に必要な情報の多くをそうした端末を介してクラウドの世界から出し入れしている。いまや仕事のできる/できないの少なくない部分は、IT活用能力の有無に近いのだ。だったら、実学を重んじる慶應大学こそが、通信の手段となるものも全部OKな、文字通りの「持ち込み条件が全て可」の試験を実施すべきではないのか。

 知らないこと、分からないことは、インターネットで調べればいい。試験で問われるのは、その調査スピードだったり、調査の深さだったりする。限られた時間内に高度な調べものをするには、実は、相応の情報(知識)が頭の中に収まっていて、それらの出し入れに慣れている必要がある。そこが問われる試験においては、もう「カンニング」という概念すら消滅する。

 そうした試験は、おそらく単純な○×で採点できるような解答を求めない。論文の採点のようなものばかりになり、実施する側の負担が大きくなりすぎる懸念はある。だが、そこもいずれは新しいテクノロジーを使った自動採点ツールの登場で、なんの問題もなくなる。

 そればかりか大学の講義の大半も、膨大なデータベースから学生一人一人が自分に見合った水準の内容を学ぶ、大学受験予備校のeラーニングシステムと近いものに置き換わる。プレゼンテーションやフィールドワークなど、リアルがどうしても必要な学習以外は教員要らず、場所要らずになる。文系学部はほとんどそうだ。

 おかげで少子化による大学経営危機は、人件費の削減で回避される。大学教員職はまさに大学受験予備校の人気講師のように、中身と芸を兼ね備えた者だけが生き残る仕事に変わる。

 以上は、もちろん勝手な妄想だ。が、そのように大学教育がコンピュータに奪われるのは勘弁だから、時代の最先端を走る慶應SFCはマサカに備えて極端にITを排除する反時代的なカンニング防止策を打ち出したのだ。という理屈が、そんなにひどい屁理屈でもないように思えるのが、このニュースの不気味なところである。

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