国内

慶應SFC カンニング防止のため時計持ち込みを禁じる意図は

 慶應大学が定期試験のカンニング防止にユニークな対策を打ち出してきた。それは極端な対策なのか、時代の先取りなのか。コラムニストのオバタカズユキ氏が考える。

 * * *
 小さいが気になるニュースがあった。慶應義塾大学が今学期の定期試験から、「すべての時計」の持ち込みを禁止することにしたという。同大学の該当サイトにはこうあった。

〈2015年度春学期定期試験より、すべての時計(腕時計・置時計・ウェアラブルウォッチなど)の持ち込みを不可とします。受験生への注意事項を確認してください。なお、試験教室には時刻確認のための時計を表示します〉

 そして、「受験生への注意事項」にはこう書いてある。

〈持込条件が全て可であっても、すべての時計(腕時計・置時計・ウェアラブルウォッチなど)の持ち込みは不可とします。また、ウェアラブルデバイス・携帯電話・PHS・PC・電子辞書等、通信の手段となるものは全て持ち込みができません。電源を切り、かばんなどに入れて机の下に置いてください。 試験中に携帯電話・PHS等が鳴った場合、監督者が一時預かります。不正行為とみなされますので注意してください〉

 要するに、いわゆる「スマートウオッチ」を使ったカンニング防止策として、それと見紛う可能性のある「すべての時計」を持って来るなというわけだ。ネット上では、「なんですべての時計なんだよ」と呆れる声が多数派。ほとんどの学生は「スマートウオッチ」ではない普通の腕時計を使用しているので、この大学の対策は強引に感じるだろう。

 ただ、なるほどと思う部分もある。その一つは上記のお触れを出したのが慶應大学の中でも総合政策学部と環境情報学部だけ、つまりSFC(湘南藤沢キャンパス)ローカルの新ルールだということだ。SFCとは何か。わざわざ説明するまでもないだろうが、公式サイトでは「極端のススメ」と題して次のように自己紹介している。

〈多様で複雑な社会に対してテクノロジー、サイエンス、デザイン、ポリシーを連関させながら問題解決をはかる。そのために設立されたのが慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)です。既存の学問分野を解体し、実践を通して21世紀の実学を作り上げることが私たちの目標です〉

 続けて、福澤諭吉の『福翁自伝』から、以下の文面を引いている。

〈” 事をなすに極端を想像す ”
「元来私が家におり世に処するの法を一括して、手短に申せば、すべて事の極端を想像して覚悟を定め、マサカのときに狼狽せぬように後悔せぬようにとばかり考えています。」〉

 そう、ITと語学教育に力を入れた脱工業化社会志向の高等教育機関として1990年に開設したSFCは、時代の先端を走ることに熱中するだけでなく、〈マサカのときに狼狽せぬように後悔せぬよう〉に〈すべて事の極端を想像して覚悟を定め〉ているのだ。

 だからこそ、流行り始めの「スマートウオッチ」にも危機感を覚えたのだろう。現段階では、試験のカンニングにどれだけ使えるか微妙な性能でも、こうしたウェアラブルデバイスはどんどん進化する。他の誰かとの通信が可能なだけでなく、ネット上の無限の情報から必要なぶんだけを瞬時に引き出せるようになる。腕に巻くタイプではなく、耳栓型になれば髪の毛で隠すこともできるし、入れ歯型で囁き声を認識するようなものになったら、試験監督が持ち物チェックをしたって見つからない。

 カンニングの視点から考えると、ウェアラブルデバイスの可能性はどこまでもリアルに広がるのだ。テクノロジーの進化は止まらない。ゆえに、そこから派生する諸問題にどう対処すべきかを今こそ考えねばならない。

 SFCはマサカのときに塾生諸君が狼狽せぬよう、逆転のアナログ思考で教えを説くことにした。そのココロは、「スマートウオッチ」の段階で「すべての時計」の持ち込み禁止になる理不尽をもってして、最新テクノロジーと人類の共存の壁を体感しなさい……というのはウソだが、ITに強い最先端大学であるからこそ、その危うさの察知も早かったとはいえるだろう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン