ライフ

IT系行く!と小料理屋継がず家を出た息子が土下座し実家復帰

「人生最大の幸福は一家の和楽である。円満なる親子、きょうだい、師弟、友人の愛情に生きるより切なるものはない」とは、細菌学者・野口英世の言葉。今回は、58才・自営業男性の家族との愛情の深さが滲む感動のエピソードを紹介します。

* * *

 わが家は3代続く小料理屋。 小さいながらも常連のお客さまにかわいがっていただき、連日、満席をいただいておりました。

 夫は朝早く起きて市場に仕入れに行き、私がその間に家事を済ませ、午後からふたりで店の準備をして夕方に開店。閉店後も翌日の仕込みや掃除をして…。帰宅する頃には時計の針はいつも深夜0時を回っていました。

 そんな私たちの支えは息子でした。何を言ったわけでもないのに、幼い頃から夫にくっついて手伝ってくれる息子に、私たちは自然と跡取りを期待していたのです。しかし、息子が大学生になった時でした。

「IT業界に進む。店は継がない」

 思いもよらぬ息子の言葉。私たち夫婦は後を継いでほしいと説得したのですが、息子はとうとう家を飛び出してしまいました。

「おれの代で終わりか…」 夫はそう呟き、肩を落としました。

 それから数年が経ったある日。夫の体に異変が起きました。筋肉が委縮する病気になってしまったのです。

「料理を作るどころか、歩くことも、しゃべることも難しくなる」

 医師からはそう宣告されました。夫の病状を息子に電話で伝えたのですが、結局、戻ってはくれませんでした。それから数年が経ち、次第に包丁を握るのがつらくなった夫は、店を閉める決意をしました。そしてそんな時、息子がひょっこり帰ってきたのです。

「いくつかの店で働いたけど、親父以上の板前はいなかった。頼む、おれに一から教えてくれないか」

 店の玄関先でいきなり土下座をした息子は真剣な表情で夫にそう言いました。聞けば、1度はIT企業に入社したものの、やはり料理が好きだと気づき、ほかの店で修業をしていたというのです。「馬鹿野郎、まずは皿洗いからだ」と答える夫の目には、涙がにじんでいました。

 今、板場には息子が立っています。「まだ親父さんには敵わねえな」と常連さんにからかわれながら、夫の料理を継いでくれています。

※女性セブン2015年7月30日・8月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

長男・泰介君の誕生日祝い
妻と子供3人を失った警察官・大間圭介さん「『純烈』さんに憧れて…」始めたギター弾き語り「後悔のないように生きたい」考え始めた家族の三回忌【能登半島地震から2年】
NEWSポストセブン
古谷敏氏(左)と藤岡弘、氏による二大ヒーロー夢の初対談
【二大ヒーロー夢の初対談】60周年ウルトラマン&55周年仮面ライダー、古谷敏と藤岡弘、が明かす秘話 「それぞれの生みの親が僕たちへ語りかけてくれた言葉が、ここまで導いてくれた」
週刊ポスト
小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン