参議院に舞台を移した安保法案審議の風向きが明らかに変わった。口火を切ったのが自民党大物OBたちだ。山崎拓・元副総裁、亀井静香・元政調会長ら長老政治家たちが共同記者会見を開き、安保法案への反対を表明した。
その中でも、防衛庁長官や自民党憲法調査会の特別顧問を務め、党内きっての改憲論者とされてきた山崎氏が「三角大福中(三木、田中、大平、福田、中曽根)」と呼ばれた総理たちと安倍思想の本質的な違いを改めて語る。
「安倍総理の憲法解釈変更は日本の安全保障上の必要性ではなく、自らの名誉心を満たすためのものだと考える。集団的自衛権については1972年10月に『他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は憲法上、許されない』という政府見解が出されて以来、三角大福中と呼ばれた傑出した総理たちをはじめ、17代の総理がその解釈を踏襲してきた。
もちろん、歴代の自民党の総理に現憲法が完璧に正しいと考えていた人はいなかったと思う。けれども、歴代総理には、『国民投票によって憲法改正がなされるまでは、現行憲法を遵守しなければならない。憲法解釈も時の政権の判断で変えてはならない。それが法治国家のあり方だ』という保守政治家としての共通の信念があった。
それを安倍総理は閣議決定という手法で解釈変更をやってみせた。法治国家のあり方をねじ曲げてでも、三角大福中でさえできなかったことをやってのけたという名誉心を満足させることを優先している。その結果、本当に必要な憲法改正が却って遠のいてしまったといえる」
そのうえで、山崎氏は改憲論の立場から、たとえ自民党の憲法改正案が国民投票で成立したとしても、今回の安保法案は違憲だと指摘する。
「自民党の憲法改正草案では9条1項の『武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する』という規定はそのまま残している。
しかし、安倍総理は安保法案で後方支援の名目での武力行使を行なうための海外派兵も可能にしようとしている。この海外派兵は自民党の憲法草案でも禁じている『国際紛争を解決するための武力行使』にあたり、憲法改正しても認められない」
明快な論理である。
※週刊ポスト2015年8月14日号