スポーツ

甲子園最多勝監督が勇退へ 自らグラウンド整備する人だった

名将、勇退へ

監督として最多63勝を誇る智弁和歌山・高嶋仁監督が秋の国体以降に勇退の意向を持っていることが10日、新聞各紙で報じられた。高校野球取材歴20年のフリーライター・神田憲行氏が惜別の文章を綴る。

 * * *
 のっけから私事で恐縮だが、私が高校野球の魅力にはまったのは奈良の小学生時代に高嶋監督率いる智弁学園に魅了されたからである。

 当時、打撃の天理と投手力の智弁学園という構図があり、橿原球場で繰り広げられる紫と赤の戦いに野球少年は夢中になった。私の感覚ではいつも本命視される天理は「巨人」であり、対抗する智弁学園は「阪神」で、阪神ファンだった私は智弁学園に注目した。その気持ちを決定づけたのは、球場で見た右の本格派といえわれた山口哲治投手のある「振る舞い」である。

 試合を球場で待っていた山口投手を小学生が取り囲んだ。「やまぐちぃー」と言いながら帽子を取ったりふざける子どもを、山口投手が「こらこら、やめろ」と、楽しそうに相手をしていた。だが私が野球帽を差し出して、「サインをお願いします」というと、急に真面目な顔をして手を振った。

「サインはしたらアカンて、監督にいわれてるから」

 サインをねだったのは、友人が天理の福家投手から貰ったサインを自慢していたからだ。まるでプロのような崩し字だった。だがサインをしないという山口に、子ども心に私は「かっこエエ!」と興奮した。

 奈良の智弁学園から智弁和歌山の監督に移られたとき、当時の野球部員が「鬼監督が来た」と逃走したという。もともと智弁和歌山は進学校として作られ、野球部も甲子園を目指すというより秀才たちのレクレーションのような存在だった。そこへ甲子園出場歴の監督がくれば、練習が厳しくなる、こりゃたまらんというわけである。高嶋さんは

「大丈夫やから。君ら野球好きなんやろ? 一緒にしようや」

 と、逃げた部員たちを説得して集めたという。

 手作り野球部で、私の取材で訪れたころはグラウンド整備やネットの補修は授業のあいた時間を使って高嶋監督自ら行っていた。97年に優勝した当時のキャプテンである中谷仁さん(後に阪神タイガースなど)は、教室を移動しているときにふとグラウンド整備している高嶋監督の姿を見て、

「あ、この人に付いていこう。この人の言うこと聞いてたら大丈夫や、と思いました」

 と私の取材に答えている。高嶋監督自身は、

「私が先にグラウンド整備しとったら、子どもが来たときすぐ練習に入れるでしょう」

 と、こともなげに語った。選手にたっぷり愛情をそそぐ人だった。

関連キーワード

トピックス

クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月20日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン