マーストリヒト条約はユーロに加盟するための条件(収斂基準)を定めているだけで、ユーロから追い出す方法については何も書いてない。私はその理由を同条約の作成にかかわった友人の政治学者ジャック・アタリ氏に尋ねたことがあるが、彼は「いかに1か国でも多く入ってもらうかに夢中で、出すことは考えていなかった」と言っていた。
しかし、ユーロを維持するためには厳格な規律が必要である。それを大きく逸脱した粉飾会計の見本市のようなギリシャが今回のEUとの約束を守らなかった場合は、一度ユーロ圏から退出させたほうがよいと思う。
ユーロ圏を離脱したギリシャは、自国通貨ドラクマを出さねばならなくなる。そうすると当然、その通貨は信用されないからハイパーインフレになるが、仮に貨幣価値が半分になれば、身の丈に合った1万ドル経済になる。これがギリシャにとってもEUにとっても幸せな道ではないかと思う。貨幣価値が半分になったら、ギリシャは輸出競争力が倍増し、外国人観光客も増えて繁栄するからだ。
先例がある。イギリスである。イギリスはEUには加盟しているがユーロ圏には入らず、自国通貨ポンドを維持した。その結果、ポンド安になり、そのおかげで今は戦後最も経済が安定し、失業率も5%台前半まで低下している。
※週刊ポスト2015年8月21・28日号