ビジネス

ギリシア・チプラス首相の政治手法 小泉元首相の手法を想起

 世界同時株安の震源地となった中国経済の行方に注目が集まっているが、もうひとつ忘れてはならないのが、ギリシアの財政危機である。現在は一時的に収束しているように見えるがなぜ、ドイツを中心としたギリシア救済の交渉は難航したのだろうか。かつて米証券会社ソロモン・ブラザーズの高収益部門の一員として活躍した赤城盾氏が解説する。

 * * *
 2015年に入ってから向かうところ敵なしの感のあった日本株の快進撃は、意外にも、遠いヨーロッパのGDP(国内総生産)が20数兆円に過ぎない小国ギリシアの財政危機によってブレーキをかけられた。

 ギリシアのチプラス首相の尊大な振る舞いは、直接の利害関係を持たない大方の日本人の目にも、粉飾決算の果てに財政破綻して救済を仰ぐ身でありながら盗人猛々しいものと映った。まして、ユーロ圏の盟主であり、救済の資金を提供させられているドイツの納税者は、怒髪天を突く思いであったろう。

 さらに、ここでギリシアに甘い顔を見せれば、他の南欧諸国の緊縮反対派が勢いづくことが目に見えている。ドイツのメルケル首相は、チプラスに花を持たせることの政治的なリスクは、ギリシアをデフォルト(債務不履行)に追い込んで数十兆円の債権が回収不能となる経済的なリスクよりも大きいと腹を括ったようであった。一歩も譲らず、むしろ不信感を露わにして態度を硬化させながら、厳しい緊縮財政の実施を迫り続けた。

 一方、ギリシア人に関しては、ドイツ人の言いなりになるのが悔しいからといって、まさかユーロ離脱に繋がるデフォルトを選ぶわけはないと誰もが考えた。

 だから、交渉が大詰めを迎えるたびに、ギリシアの譲歩を見込んで株が買われ、チプラスのちゃぶ台返しに遭って売り込まれるというドタバタが繰り返されたのである。

 緊縮受け入れの是非を国民投票にかけ、反対を呼びかけ、その舌の根も乾かぬうちに敵の要求を丸呑みして緊縮を受け入れる。いったいチプラスは何をやりたいのか、いたずらに自国の経済を混乱させたいのか、と訝いぶかしく思った。

 しかし、よく考えてみれば、チプラスは、国民投票の勝利によって、党の内外のライバルに自らの人気を誇示し得たのであろう。2005年の郵政解散によって政権基盤を強化した小泉純一郎首相の手法に通ずるものといえようか。

※マネーポスト2015年秋号

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン