その事故現場では、工事関係者らが防毒マスクを装着。筆者も強い異臭を感じた。工事車両は現場の出口付近で、浄化剤入りの水を車体にかけるよう指示されていた。近くの川で無数の魚の死体が浮かび上がったことからも、かなりの量の化学薬品が残留しているのは明らかだ。
爆心地に隣接し、立ち入り禁止になっていたマンションの敷地内にも入った。避難した住民向けの保険会社による説明会のため、一時的に立ち入り禁止が解除されていたのだ。
数十棟もあるマンションのほとんどの部屋は、爆風で窓ガラスが吹き飛び、暗く黒い空洞がぽっかり浮き彫りになっていた。
内部はガラスやドアなどの破片が飛び散り、住民らは「もうここには住めない」と口々に叫び、「事故の責任を取れ」「数百万元も出したマンションなのに、二束三文の賠償金では絶対に納得しない」などと政府の対応に不満を爆発させていた。
会場では住民の“暴動”を抑えるための武装警察数十人が警備につき、険悪な雰囲気に包まれていた。マンションの敷地内にも武警によってテントが張られ、住民の引っ越しのため、室内の荷物を運び出すのを手伝う隊員を振り分けていた。高さ2メートルほどある結婚式の写真パネルを、武警隊員が大切そうに運ぶ姿もあった。
天津市当局は9月5日、この爆発跡地に、犠牲になった消防士らを悼む英雄記念碑などを建て、「生態公園(エコパーク)」とする計画を表明。11月にも着工し来年7月に完成予定だというが、化学薬品の残留をはじめ問題は何も解決していない。
中国国民は何より原因究明を望んでいる。北京でも上海でも、同じような不法な危険物の大量貯蔵があるとされるからだ。事故原因を隠蔽すれば、政権への不満を募らせるのはマンション住民に留まらない。
※週刊ポスト2015年9月25日・10月2日号