ビジネス

戦闘機の技術をロケットにつなげた「宇宙開発の父」糸川英夫

 戦時中の日本の航空技術は、その後のロケット開発にも貢献した。そこには、GHQの「航空禁止令」に負けなかった男たちがいた。元航空エンジニアでノンフィクション作家の前間孝則氏がつづる。

 * * *
  戦時中、国民に圧倒的な人気を誇っていたのは零戦ではなく、三菱重工と双璧をなしていた中島飛行機製の「一式戦闘機・隼」だった。その隼の空力計算を担った人物に、後に「日本の宇宙開発の父」と呼ばれる糸川英夫がいた。

 敗戦を迎えGHQから航空機の設計や研究を禁じられた「航空禁止令」が下されると中島飛行機の技術者たちは、散り散りになり廃業する者もいた。東大で無人誘導弾の研究をしていた糸川も「飛行機屋失業」で「陸に上がった河童」となったが、敗戦に打ちひしがれてはいなかった。

 糸川は中島飛行機時代から「共振(フラッター)」なども専門としていた。そこで東大病院の医師から声を掛けられ、「脳波診断器」の研究に打ち込む。また、大学では「音響工学をやる」と宣言し、バイオリン製作なども行った。

 主権回復後の昭和28年、米国の有人宇宙飛行計画を知った糸川は、かつての航空研究者などに呼びかけた。

「ロケットをやろうじゃないか」

 この呼びかけには、中島飛行機の流れをくむ富士精密工業のエンジン技術者・中川良一や戸田康明らも応じた。世間がジェットエンジン開発へ邁進する中、富士精密工業は一歩先のロケット研究を見据えていたのだった。ここにかつて最先端を追求し先進すぎる企業とまでいわれた旧中島飛行機の英知が再集結した。

 糸川らは昭和30年、日本初となるロケット(ペンシルロケット)の発射実験を成功させる。それを皮切りに、次々とロケットのシリーズを開発し、「ロケット博士」「日本の宇宙開発の父」と呼ばれることになった。

 糸川をはじめとした日本の技術者たちは時代の常識を超え、突飛とも思える夢やアイディアをぶち上げていた。ときに糸川らは「大言壮語の山師か!」と言われつつも、目標に向かってまっしぐらに突き進んだ。その突破力が重苦しい占領下の時代であっても変わることはなかったからこそ、日本は航空宇宙技術の花を咲かすことができたのだ。

※SAPIO2015年10月号

関連記事

トピックス

本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《スイートルームを指差して…》大谷翔平がホームラン後に見せた“真美子さんポーズ”「妻が見に来てるんだ」周囲に明かす“等身大でいられる関係”
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《「策士」との評価も》“ラブホ通いすぎ”小川晶・前橋市長がXのコメント欄を開放 続投するプラス材料に?本当の狙いとは
NEWSポストセブン
女性初の首相として新任会見に臨んだ高市氏(2025年10月写真撮影:小川裕夫)
《維新の消滅確率は90%?》高市早苗内閣発足、保守の受け皿として支持集めた政党は生き残れるのか? 存在意義が問われる維新の会や参政党
NEWSポストセブン
2021年ドラ1右腕・森木大智
《悔しいし、情けないし…》高卒4年目で戦力外通告の元阪神ドラ1右腕 育成降格でかけられた「藤川球児監督からの言葉」とは
NEWSポストセブン
滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月25日、撮影/JMPA)
《すぐに売り切れ》佳子さま、6万9300円のミントグリーンのワンピースに信楽焼イヤリングを合わせてさわやかなコーデ スカーフを背中で結ばれ、ガーリーに
NEWSポストセブン
注目される次のキャリア(写真/共同通信社)
田久保真紀・伊東市長、次なるキャリアはまさかの「国政進出」か…メガソーラー反対の“広告塔”になる可能性
週刊ポスト
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
この笑顔はいつまで続くのか(左から吉村洋文氏、高市早苗・首相、藤田文武氏)
自民・維新連立の時限爆弾となる「橋下徹氏の鶴の一声」 高市首相とは過去に確執、維新党内では「橋下氏の影響下から独立すべき」との意見も
週刊ポスト
新恋人のA氏と腕を組み歩く姿
《そういう男性が集まりやすいのか…》安達祐実と新恋人・NHK敏腕Pの手つなぎアツアツデートに見えた「Tシャツがつなぐ元夫との奇妙な縁」
週刊ポスト
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン