カレーは日本人の国民食だ。専門店では多種多彩なカレーが楽しめ、ファミリーレストラン等でも定番ではあるが、実のところ日本人が一番接する機会が多いのは「家のカレー」だろう。
この国独自の家庭カレー文化を支えてきたのが、1950年に発売された固形のカレールウだ。その市場でシェア6割という圧倒的強さを誇るのが業界最大手のハウス食品である。同社の歴史と強さの秘密を探った。
ハウスのカレールウの売り上げの半分は『バーモントカレー』によるもので、市場全体の3割を占めている。同製品は1963年、子供向けの甘いカレーとして開発された。つまり日本でもっとも支持されているのは「甘口カレー」だという事実が浮かび上がってくる。
バーモント以外にも、ハウスからは『ジャワカレー』『こくまろカレー』がルウ売り上げトップ5にランクインしている。
「子供が小さい時は『バーモントカレー』、大きくなると子供から大人まで食べられる『こくまろカレー』、独身あるいは夫婦2人ならスパイシーな大人の『ジャワカレー』と、家庭によって主力3商品が使い分けられるように考えています」(同社食品事業一部の石川哲也・ビジネスユニットマネージャー)
『バーモントカレー』は試作段階では「フルーツカレー」と呼ばれていたという。それがなぜこの商品名になったのか。
「開発中、アメリカ東部の長寿で有名なバーモント州に民間療法として伝わるりんご酢とハチミツを使った健康法があることを知り、その名前を使うことになったと聞いています」(同前)
バーモントの発売から50年以上が経つが、中身はマイナーチェンジを続けている。時代に合わせ、りんごとハチミツの量やスパイスの配合に改良を続けてきた。前出・石川氏が説明する。
「主力3商品は3~4年に1回は見直しを行なっています。バーモントはこれまで10回以上の改良をしており、微調整を含めると数えきれません。最近はコクと深みを求める傾向を反映し、ルウの色も濃くなっています」
写真でわかるように、『バーモントカレー』は、黄色に近い発色だった発売当初から、ブラウン系の色味に変わっている。
現在、ハウス食品が注力しているのがカレーを中国で“人民食”にすること。そもそも中国にはカレーライスを食べる文化がなかった。そのため2005年に発売した『百夢多カレー(バーモントカレー)』は、中国料理で使われるカレー粉の色に合わせ、ルウの色を明るい黄色にした。様々な工夫の結果、中国のカレー事業の2014年度売上高は前年度比5割増の35億円と右肩上がりに伸びている。
※週刊ポスト2015年10月9日号