先発が完投することで、抑えを休ませることができるといった合理的な理由だけでなく、エースの存在は精神的な支えであることはいうまでもない。日本プロ野球歴代2位の通算350勝の記録を持つ米田哲也氏はこう話す。
「エースというのは完投して当たり前の存在です。特にエース対決では先に降板するなんて許されない。7回降板も完投も、肩への負担にそこまで差はないし、疲れてきても低めにしっかり投げて、厳しい状況を踏ん張るからこそ盛り上がる。完投は記録にも残るし、もし自分から“7回で代わる”というエースがいたら、(エースナンバーの)背番号18は返上しないといけない」
もちろん時代とともに野球は変わっている。「契約上、リリーフ投手を一定数のイニング登板させなければならないこともある」(米田氏)が、往年の名選手たちの言葉がしっくりくるファンは少なくないはずだ。中国新聞の記事はこう結んでいる。
〈エースと呼ばれるならば、その姿でチームを鼓舞してもらいたい。そう願うのは、古くさい価値観の押し付けだろうか。(中略)期待を超えるほどの気概は伝わってこない〉
記事を書いた記者に取材を申し込んだが、「記事に書いてあることが全てです」(読者広報部)とだけ回答が寄せられた。
分業制が当たり前となった球界に一石を投じたことは間違いない。
※週刊ポスト2015年10月9日号