近年は山田太一のスペシャルドラマ『小さな駅で降りる』でのくたびれたサラリーマン役や、オーディションを受けて臨んだ米映画『アメリカンパスタイム』、そして今年に入ってのNHK時代劇『風の峠』などで、幅広い役柄を演じている。
「山田さんのドラマではかっこいい要素を消そうとしています。モデルのような感じでカッコイイと思われたら、ドラマは成立しませんから。どこにでもいる中年でないと。日常生活でオンとオフがありますよね。オフの状態がないと『中村雅俊』ではいられない。そのオフの状態がどんな感じかを意識していれば、誰でもできると思いますよ。
人生の折り返し地点は過ぎているので、チャレンジという名の下に今までやっていないこともやってみたいと思ってきました。アメリカ映画に出演したのも、そうです。オーディションを受けるのは、文学座で研究生をしていた時以来のことで、みんな俺のことは知りませんから、勇気が必要でした。
最近は時代劇にも出ていますが、コンサートも続けています。芝居をしている中村雅俊と歌っている中村雅俊。その極端な変化を見せられるという喜びはありますね。役者として、歌手として、それぞれ素晴らしい方はいますが、俺はそのどちらでもない。俺は俺の定めとして、両方を全力でやってきたつもりです」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年10月16・23日号