1963年の大統領選挙に当選した朴は、出身地の慶尚道を優先したインフラ整備を行い、官庁人事では同郷の出身者を優遇した。朴が主導した地域開発運動「セマウル運動」(韓国語で「新しい村づくり」の意。農漁村の近代化、所得拡大などを目的に、1972年から開始された)でも、モデル地域を慶尚道に置いている。

 一方、全羅道は開発が後回しとなり、中央官庁でも出身者が冷遇されるなど露骨な差別にさらされた。朴への強い不満が、慶尚道に対する対抗心につながっていったのだった。

 そうした長年にわたる全羅道の鬱憤を晴らしたのが、1998年の金大中の大統領就任だった。民主化運動のリーダーとして知られる金だが、生まれ故郷は全羅南道で、差別にあえいできた歴史を肌で知る政治家でもあった。

 大統領として南北首脳会談など国際的に注目される政治活動を展開するだけでなく、金は地域差別の解消を訴えるとともに、鉄道や道路など全羅道への開発にも力を注いだ。

 全羅道の人たちにとって、金に対する尊敬の念は格別のものがある。2008年に筆者が木浦を訪れた際、タクシーの運転手に「金大中の出身地はこの近くですね」と話しかけると、いきなり激高し「呼び捨てとは何だ! 金大中先生と言いなさい!」とまくしたててきた。

 そうした反応には面食らったものの、差別を受け続けてきた地域から大統領を輩出したというカタルシスに裏打ちされていると思えば理解しやすいだろう。

※SAPIO2015年11月号

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