外国人が日本に来て、驚くのは、飲食店に入った時におしぼりや水が無料で出てくること、頻繁にお辞儀をすること、などがあげられる。その歴史は古く、おしぼりを出す文化は平安時代から、お辞儀の文化は飛鳥時代からあったともいわれている。
そんな「おもてなし」が、急速に拡大したのは、「1964年に開かれた東京五輪がきっかけ」と言うのは、評論家の呉智英さんだ。
「戦後の日本は、街も汚くて、立ち小便をする人はたくさんいるし、電車やバスの乗り降りでもきちんと並んでなんていなかった。でも、東京五輪をきっかけに、“これじゃ恥ずかしい”“こんなマナーじゃ国際社会の一員として認められない”という空気が広がって、公衆マナーが一気に変わったんです」
そうした日本のマナーは海外からも評価されたが、今「おもてなし」はあまりにも過剰なものになりすぎているのではないか。
「誰かをもてなしたい、というよりも、“おもてなしをしなければいけない”という意識のほうが強くなっているような気がします。そうして競い合うようにおもてなしをした結果、受ける側は“されて当然”という気持ちになり、ちょっとしたことで理不尽なクレームをつけたりするようになる。おもてなしという言葉を武器に相手を責めるのです。現代社会で、本当におもてなしの意味をわかっている人はどれだけいるのでしょうか」(同前)
今月13日には、北海道で「指定した時刻に宅配便が配達されない」と、配達員の男性に、バリカンで頭を丸刈りにさせた50代の男性が逮捕される事件があった。これは“おもてなし”に甘んじた意識の表れが引き起こした事件といえよう。
一方でこうしたクレーム事件を恐れた企業は、昨今、“自主規制”や即座に“謝罪”する風潮が強くなっている。こうして現代社会には“間違ったおもてなし”が一層蔓延していくのではないか?
※女性セブン2015年11月5日号