もっとも先日、さらにすごいキャッチコピーのついた肉を発見してしまった。都内のとある飲食店の紹介文で、「黒毛和羊」「羊の中で唯一の肉専用種『サフォーク種』」という謎の表記を見つけてしまったのだ。
何が謎かというと「黒毛和牛」をもじったのであろう「和羊」という表記だ。和牛には品種に明確な定義がある。サフォークはイギリス原産で「和羊」ではないし、黒いのは顔など体の一部だけだ。しかも肉用種の羊にはサフォークのほか、「肉めん羊の王」とされるサウスダウンなどもある。
普段なら「信州サフォークは数十頭しか飼育されておらず、幻の羊とも呼ばれています」などの表記はスルーするが、あまりにツッコミどころ満載なので、信州サフォークのお膝元、信州新町支所の産業振興担当に問い合わせてみることに。
まず飼育頭数は「出荷の前後で変わるが、多い時期で約500頭、少ないときには250頭くらい」だという。ケタがひとつ違う。さらに「黒毛和羊」について聞くと、担当者は苦笑いしながら「一時期、そう呼んでいたお店もありましたが、こちらでは、まずそういう呼び方はしません」とバッサリ。
もったいない。あまりにもったいない。というのも、信州サフォークはとてもおいしい羊だ。出荷されるのは、ラムより味が乗り、マトンより香りがやさしいとされる12~24か月までの「ホゲット」。主にチルド・冷蔵で流通に乗せているので、肉の状態もいい。
そこにどんな意図があるにせよ(もしくはないにせよ)、情報はものの価値を操作してしまう。お手軽に「盛った」ところですぐバレてしまう。いいものであれば、そのいいところに向けて、真摯に焦点を合わせ、光を当てたほうが生産者や食べ手にも喜ばれる。あふれかえる情報のなか、ブランディングにも当然のように誠実さが求められる時代なのだ。本来は、いつの時代でもそうあるべきではあるのだが。