一方でこの調査で不思議なのが、「日本企業はもっとグローバル化を進めるべきか」という問いに対して73.4%の人が肯定的に回答している点だ。
「海外勤務は外国で働きたい、生活してみたいという好奇心や動機が先にあって、そのために語学というスキルを磨くのです。スキルがないので海外に行きたくないというのは本末転倒でしょう。それは海外で働く動機が生じない本当の原因を隠しているのではないか、とすら思えてきます」(A氏)
駐在ではないが、私も20代の終わりにベトナムのホーチミン市で日本語教師として1年近く働いていた。初めて海外旅行をしたのが27歳で、3回目の海外旅行がベトナムへの「転職」だった。ベトナム語どころか英語もろくに話せなかったが、なんとかなった。
当時のホーチミン市は日本人在留者が100人程度で、小さな日本食堂で将棋を指している相手が日本の商社の現地トップというのが普通にあった。下痢に日本製の何々という下剤止めが効くという情報をみんなで共有したり、連帯感もあった。
短い期間だったにもかかわらずベトナム経験がその後の私の仕事観・人生観・日本観に大きな影響を与えたのは、それが「留学」ではなく、ある程度の社会経験を積んだ後に「働く」ことだったからだと思う。留学生のなかにはベトナムに思い入れが溜まるあまり、日本を全否定することに走ったり、逆にベトナム社会に反発する人もいた。
ある留学生は毎月1回、高いホテルのバーで呑むことにしていた。自分が「ベトナム人とは違う」ということをわざわざ確認するために。日本に帰れば普通の大学生が、帝国ホテルのバーのようなところで呑むのはおかしいだろう。
留学ではなく現地の人と一緒になって、助けたり助けられたりしながら働くと、日本とその国の良いところも悪いところも相対化して考えられるようになる。私がベトナムに行った動機は「外国で生活してみたい」という素朴で幼稚なものだったが、そんな動機、短い体験ですら得られたものは大きかった。海外で働くとは、人生のなかでレバレッジ効果が大きい体験だと思う。