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400年前のキリシタン「迫害の歴史」を辿るノンフィクション

【著者に訊け】
星野博美さん/『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』文藝春秋/2106円

【本の内容】
 今から400年以上前、ヨーロッパに渡った4人の少年たち。そして自分の祖先について調べる中(『コンニャク屋漂流記』)で発見した、千葉県御宿・岩和田での南蛮船の難破。遠い過去の歴史の中に埋もれる彼らに思いを馳せる長い旅が始まった。「今もキリシタンへの興味が終わったわけではなくて、まだまだ旅は続きます」(星野さん)。

 四百年前の日本にいたキリシタンの足跡をたどった。すさまじい迫害の歴史でもあり、信仰を持つ人同士のひそかなつながりもまた、星座のように浮かび上がらせる。

 壮大なテーマを書くにあたり、星野さんはまずリュートを習い始めた。キリシタン大名がローマに派遣した天正遣欧使節の少年たちが豊臣秀吉の前で披露したとされる古楽器だ。

「この話がどこに行き着くのか全然わからなかったので、とりあえず自分が手をつけられそうなところは音楽かな、と思ったんです」

 十六、七世紀の西洋絵画を眺め、大学でキリシタン史を学ぶなど、時間をかけて「外堀」を埋めた上で、長崎やスペインにまで足を運んだ。

「書くとき、助走の時間がすごく必要なんです。苦手な現場は最後の最後に回してスペインに行ったのも連載の最終回。編集者に『ほんっとにそろそろ行ったほうがいいですよ』と言われて行きました(笑い)」

 大宅賞を受賞した『転がる香港に苔は生えない』をはじめ、旅する作家の印象が強いが、意外にも「旅は嫌い、取材も嫌い。できればずっと家にいたい」と言う。「全然、ノンフィクションにむいてない」と苦笑しつつ、旅の途中で出会った人に貴重な話を聞いている。

「私は近所のコンビニや本屋でも絶対、人に話しかけられない。旅先でもいつも困り果てています。『困った感』が全身からすごく出ているようで、『どうしました?』と誰かが助けてくれる。ひたすらその誰かを待っています」

 宣教師たちの大追放が起きたのが一六一四年。連載していた時期は、ほぼぴったり四百年後にあたっていた。「そろそろ大追放だなとか、そろそろみんな船に乗せられていくなと、状況を想像しやすかった」と話す。暮らしの中で刻一刻、時間の流れを肌で感じ、一人ひとりの運命に思いを馳せた。

 宣教師たちの手紙を読んでそれぞれの性格がわかり、徐々に身近に感じられるようになっていったという。牢に入れられた後も彼らの手紙が残っているのは、危険を冒してペンやインクを差し入れた人、それを見て見ぬふりをした牢番がいたからだ。四百年前の史料に丹念にあたりつつ、星野さんは史料の空白も見逃さず、書かれなかった理由にも想像力を働かせる。

「天正遣欧使節が秀吉の前で西洋音楽を演奏したことはこれほど有名なのに、曲名が伝わっていないのはなぜなのか。大殉教を伝える絵や文章が複数あり内容がそれぞれ違うのは、大混乱の現場だったからなのでは。四百年前だと思うと壁にぶち当たってしまうけど、今の自分が取材する感覚で読むと臨場感を持って文章が伝わってくるんです」

(取材・文/佐久間文子)

※女性セブン2015年11月19日号

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