「同じ役ばかりやっていると、秋風が吹き始めてきてね。『どこを切っても藤竜也』の金太郎飴だと、誰でも飽きてくる。そうしたら仕事がなくなって。本当に二年か三年かに一回とか。

『いつもの藤竜也』で仕事が来ないなら、変わらなきゃしょうがない。それで、四十代の後半に金太郎飴を止めてみたんですよ。今度は『藤竜也』を捨てて、役に僕の肉体を貸すというやり方にした。でも、それができるようになるまで七、八年はかかったかな。オファーする方に『藤竜也もそういう演技ができる』と信用してもらえなくて。

 今は役柄を『デザインする』と考えるようにしています。そのやり方は役によって変わるんだけど。役を切り口に、この男はどんな学校を出て、どんな仕事をして、どんな性格なのか、そういうプロファイリングをしています。勝手に出身校を考えて、その学校まで行ってみたりね。それで校庭の銀杏の木を眺めながら『ああ、こいつはここでこういうことを思っていたんだな』とか。それが演技の何の足しになるかは分かりません。

 ただ、そうすると安心できるんです。ようは、自分に自信がつけばいい。そうすれば、自分の体を役に託すことができて、勝手にその役が喋り出します。

 一番大事なのは、仕事に飽きないことだと思う。飽きちゃったら、どんな努力してもダメだね。女の子と同じだよ。飽きちゃった女の子と一緒にいても、それってツラいだけだからね」

■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2015年11月20日号

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