ライフ

日本の春画騒動に世界一のコレクターが苦言「誇り持つべき」

春画が持つメッセージ性は海外で高く評価されている

 春画を掲載した週刊誌が、警視庁から「わいせつ図画頒布罪に当たる可能性がある」と口頭指導を受けていた件が議論を呼んでいる。芸術かわいせつか? 日本ではさまざまな意見が飛び交っているものの、イギリス・大英博物館で春画展が開催されるなど、春画の世界的な評価は高い。現在は、国内においても東京・永青文庫で初の春画展が開催され、好評を博している。

『ニッポン春画百科』(平凡社)などの著者であり、8000点以上の春画を所有する世界一のコレクターで、大英博物館の春画展にも協力したオフェル・シャガン氏は、今回の騒動に関して次のような見解を示す。

「春画とポルノの決定的な違いは、ポルノが個人の性欲高揚や自慰行為の道具として使われる役割、いわば“感情”が含まれていない絵であるのに対し、春画は感情がうごめいている絵であるということ。当時の江戸文化、ひいては日本における社会的メッセージを伝えるために性的題材を扱っているアートです。それを否定する行為は、ナンセンスと言わざるをえないです」

 浮世絵の研究をしているうちに、いつしか春画独自の芸術性に魅了されていったというシャガン氏。オープンでありながら誰でも楽しめる裸体の絵が存在する国は、日本以外には見当たらず、それが魅力であると力説する。

「春画は、嫁入り道具やお守りとして手渡されることもありました。花魁を描いた春画には、かんざしや着物に当時のトレンドが描かれています。また、強姦をしている春画は必ず醜男がモチーフになっていて、『やってはいけないこと』などの教養のメッセージが込められている。事実、子どもと両親が一緒に鑑賞している内容の春画もたくさんあり、家族間の重要なコミュニケーションツールであったこともうかがえます。春画が持つメッセージ性は、当時の江戸の大衆文化がいかに豊かだったかを表しています」

 とはいえ今の日本では、遺品整理などで高齢者の部屋から春画が見つかると、恥ずかしがって家族が捨ててしまうことも珍しくないという。再評価の機運が高まりつつあるといっても、いまだ一部の人は、春画=わいせつという認識を持っているのが現状だ。シャガン氏は、日本こそ春画により一層理解を深めるべきだ、と力説する。

「もっと春画に対して誇りをもってほしい。ヨーロッパで激賞されている一方で、本国である日本での評価が低すぎます。日本では、春画に対する先入観があるため展覧会を開催すること自体、本当に難しい現実がある。素晴らしいオリジナルの文化がたくさんあったということ、自分たちのルーツを知ろうとする興味を持つこと……そういう日本人が増えていけば、きっと春画に対しても正しい評価が下されるはず。私はまだ20年ちょっとしか日本にいませんが、日本の文化は素晴らしいと胸を張れますよ」

写真提供■オフェル・シャガン

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン