当時の日本サッカーは世界から著しく遅れていた。「とにかく走って点を入れろ」としか指導されておらず、全員がボールに集まる有様だ。
クラマーさんはそれを抜本的に変え、パス回しなどサッカーのイロハから教えてくれた。口を酸っぱくしていわれたのは、「パスを出したらとにかく走れ」ということ。それも闇雲に走るのではなく、相手の動きを見てパスのもらえる場所に動けということだ。
今では当然だが、そんな指導を受けたことがなかったので当時は新鮮だった。この指導があったからこそ、私はメキシコ五輪での得点王を取れ、チームは銅メダルという快挙を達成したのだと思っている。
私はいま、クラマーさんから教わったことを3つの『B』として子供たちに伝えている。
蹴る、止める、運ぶの動作“ボールコントロール(Ball Control)”、スピード、スタミナ、スピリッツの総合力“ボディバランス(Body Balance)”、柔軟に対応できる考え“頭脳(Brain)”。これがサッカーでは一番大切だ。
これからもクラマーさんの志を未来のストライカーに伝えていくつもりだ。それが「日本サッカーの父」への恩返しになると思っている。
●かまもと・くにしげ/京都府生まれ。日本代表としてメキシコ五輪に出場し、銅メダルを獲得した。
※週刊ポスト2015年11月27日・12月4日号