当作は深夜ドラマであり、大事件や過剰な演技も伏線もないだけに、何も考えずボーッと見ることもできますが、それだけではもったいないと思います。たとえば、登場人物たちに自分を重ねて見ると……小学生のときにからかってしまったあの子を思い出し、成功した友人を素直に祝福できない自分を実感し、おばあちゃんとの会話に涙腺がゆるむなど、過去の記憶や現在の葛藤に思いをはせてみてはいかがでしょうか。
また、エンディングで流れるRCサクセションの名曲『空がまた暗くなる』も印象的で、忌野清志郎さんの歌う“大人だろ、勇気を出せよ”というメッセージに、心の内側をそっとくすぐられます。それら全てに渡って、「泣かせようとは思わない。感動させようとも思っていない。そうするかどうかは、あなた次第ですよ」。そんな石井監督の声が聞こえてくる気がしますし、見る人の心を映す鏡のような、感受性の豊かさを試される作品ではないかと感じています。
ちなみにこのドラマは「原作協力」の書籍こそあるものの、キャラクター設定や各話の筋書きは全く異なるものであり、事実上オリジナル脚本と言っていいでしょう。悪人がたくさん出て来て、それを主人公が懲らしめて溜飲を下げる。あるいは、“壁ドン”や露出の激しいベッドシーンを連発する。そんな分かりやすさ重視のドラマが主流の中、『おかしの家』のような視聴者の思考回路を動かすオリジナル作品が増えることを願ってやみません。
【木村隆志】
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』(TAC出版)など。