◆死ぬことと殺されることは全然違う
日本の海運会社が海賊対策として民間企業から武装警備員を雇っていたり、国内のテロ壊滅に成功したスリランカに優秀な警備会社が多かったり。横田氏の行く先々、初めて聞く話の連続だが、注目は2014年3月、彼とイスラム法学者・中田考氏がISの前身ISISの幹部取材に成功し、トルコに戻る際の銃撃戦だろう。
ちなみに襲われたのは拠点に入る時ではなく、出る時。後に横田氏は「イスラム国に拘束経験のある人物」などと誤報されるが、ISIS側の手引きでシリアに入り、歓待すらされたのだ。
「よく皆さん驚かれるんですけど、ラッカでは中田氏共々客人扱いされ、各国から集まった兵士たちと車座で食事もした。危なかったのはむしろトルコに戻る時で、自警団に銃撃されるわ、住民からボコボコにされるわ、完全に悪人扱いです」
と頭を掻く横田氏が、国境の鉄条網を潜り抜け、銃弾の中をジグザグに駆け抜けるシーンはまさに映画さながら。だが、この時の中田氏の行動と強心臓だけは、映画にも描けまい。
「あの時、中田さんと別れて逃げるしかなかった僕は、彼が戻らないことで自分を責めた。もう死んだんなら諦めもつく。でも捕まったり撃たれた場合は何としても助けなきゃならないし、痛む身体で辺りを探したら、中田さんが村人に引きずられてきた。中田さんはなんと麦畑に寝転んでツイッターで『今、大変なんだって生中継してた』って(笑い)。あれにはもう、怒る以前に腰が抜けました」
裏を返せば、敵も味方も状況次第。ISにもタリバンにも米軍にも気のいい人間はおり、その善人が状況次第では豹変する現場を、彼は数々見てきたと言える。