「むしろ本当の悪党なんて少ないと思いますけどね。僕がタリバンと米軍に従軍取材したのも両方の言い分を聞かないとフェアじゃないからで、向こうも国籍や立場より、『お前いいヤツだな。乗れよ』とかね。日本人ってことで珍しがられはしても、損したことは一度もないし、その状況が山の天気みたいに一瞬で変わるから、侮れないんです」
慎重で自称・臆病な彼が〈最後は運〉と書くだけに戦地の過酷さはいや増す。
「死ななかったのはホント、運だけですよ。沢田教一もキャパも一ノ瀬泰造も早死にですし、生き残った人が運のいい人なんだと思う。
実は僕が沢田教一に憧れたのも34という享年が大きくて、昔は40になって生きてる自分なんて想像できなかった。でも今は違います。本書でも湯川遥菜氏と後藤健二氏がISに誘拐された時の話に少し触れましたが、家族や友人に迷惑はかけたくないし、死ぬことと殺されることは全然違う。それでも僕は仕事だから、戦場を撮りに行くんです」
では戦争そのものがなくなった時はどうするのか?
「いや。僕に仕事があろうがなかろうが、戦争は絶対なくならない。これだけは残念ながら断言できます」
反戦も人道主義も殊更に謳わず、死体を初めて見た感覚すら、〈不思議なことに、私はなにも感じなかった。恐怖や悲しみ、怒りといった感情が湧いてこなかった〉と、事実そのままに横田氏は書く。今も地球のどこかで続く戦争の実相を伝えることが彼の仕事だからだ。
【著者プロフィール】横田徹(よこた・とおる):1971年茨城県生まれ。専門学校卒業後、米西海岸で1年生活。帰国後も古着輸入業など職を転々とし、1997年カンボジア内戦を初取材。2007~2014年のアフガン取材、2013年のラッカ潜入等で知られ、テレビ出演も多数。2010年中曽根康弘賞奨励賞。「実は先月結婚できたのも本書のおかげで、彼女の両親に必ずいい本にしますって宣言しちゃったんです。金も保証もない戦場カメラマンには結婚の挨拶に行く方が怖かった(笑い)」。170cm、65kg、A型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2015年12月11日号