ライフ

【書評】現実と並行して空母の戦い描き「国民の覚悟」を問う

【書評】『空母いぶき』【1】【2】/かわぐちかいじ著・惠谷治協力/小学館/各本体552円+税

 漁民を装った中国人工作員が尖閣諸島に上陸。日本側が身柄を引き渡し、日中の軍事衝突は避けられたが、中国はその後も強硬な膨張策を続けている。それに対抗するため、日本は垂直離着陸戦闘機を搭載した事実上の空母である新型護衛艦を就役させた。そしてある日突然、空母を中心とする中国艦隊が尖閣諸島、与那国島などを占領する。

 日本は新型護衛艦を中心として島の奪還を目指す。指揮を執るのは空自始まって以来のエースパイロットで、リスクを怖れない一等空佐。果たして海上自衛隊と中国海軍の戦いの行方は……。

 昨年末から「ビッグコミック」で連載が始まったかわぐちかいじの『空母いぶき』のコミックス第1巻、第2巻が同時発売された。

 これまで『沈黙の艦隊』で潜水艦の、『ジパング』でイージス艦の戦闘を描いた作者は、今回、21世紀の海と空を制するのに欠かせない空母の戦いをテーマに据えた。作者の描写力にはますます磨きがかかり、エンタテインメントでありながらリアリティがあるが、今回は現実の国際情勢が切迫しているだけに、なおさらリアリティを感じさせるのだ。

 作中、自衛隊を出動させる「防衛出動」に踏み切るべきかどうかを迫られる総理大臣から、ミサイルの発射ボタンを押すかどうかを逡巡する戦闘機のパイロットに至るまで、それぞれの立場の人間がそれぞれの場面で〈覚悟〉を問われる。そうした場面の描写を通し、作者が一番問いたいのは「国民の覚悟」ではないだろうか。

 単行本化されたのはまだ2巻目までだが、早くも大作の予感がある。現実の国際情勢と並行して進むであろう物語から目が離せそうもない。

※SAPIO2016年1月号

関連記事

トピックス

かりゆしウェアをお召しになる愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《那須ご静養で再び》愛子さま、ブルーのかりゆしワンピースで見せた透明感 沖縄でお召しになった時との共通点 
NEWSポストセブン
松嶋菜々子と反町隆史
《“夫婦仲がいい”と周囲にのろける》松嶋菜々子と反町隆史、化粧品が売れに売れてCM再共演「円満の秘訣は距離感」 結婚24年で起きた変化
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、夫の音楽家・塩入俊哉氏(時事通信フォト、YouTubeより)
《実は既婚者》参政党・さや氏、“スカートのサンタ服”で22歳年上の音楽家と開催したコンサートに男性ファン「あれは公開イチャイチャだったのか…」【本名・塩入清香と発表】
NEWSポストセブン
注目度が上昇中のTBS・山形純菜アナ(インスタグラムより)
《注目度急上昇中》“ミス実践グランプリ”TBS山形純菜アナ、過度なリアクションや“顔芸”はなし、それでも局内外で抜群の評価受ける理由 和田アキ子も“やまがっちゃん”と信頼
NEWSポストセブン
中居、国分の騒動によりテレビ業界も変わりつつある
《独自》「ハラスメント行為を見たことがありますか」大物タレントAの行為をキー局が水面下でアンケート調査…収録現場で「それは違うだろ」と怒声 若手スタッフは「行きたくない」【国分太一騒動の余波】
NEWSポストセブン
かりゆしウェアのリンクコーデをされる天皇ご一家(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《売れ筋ランキングで1位&2位に》天皇ご一家、那須ご静養でかりゆしウェアのリンクコーデ 雅子さまはテッポウユリ柄の9900円シャツで上品な装いに 
NEWSポストセブン
定年後はどうする?(写真は番組ホームページより)
「マスメディアの“本音”が集約されているよね」フィフィ氏、玉川徹氏の「SNSのショート動画を見て投票している」発言に“違和感”【参院選を終えて】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
皇室に関する悪質なショート動画が拡散 悠仁さまについての陰謀論、佳子さまのAI生成動画…相次ぐデマ投稿 宮内庁は新たな広報室長を起用し、毅然とした対応へ
女性セブン
スカウトは学校教員の“業務”に(時事通信フォト)
《“勧誘”は“業務”》高校野球の最新潮流「スカウト担当教員」という仕事 授業を受け持ちつつ“逸材”を求めて全国を奔走
週刊ポスト
「新証言」から浮かび上がったのは、山下容疑者の”壮絶な殺意”だった
【壮絶な目撃証言】「ナイフでトドメを…」「血だらけの女の子の隣でタバコを吸った」山下市郎容疑者が見せた”執拗な殺意“《浜松市・ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問
NEWSポストセブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン