日本の建築界は1964年東京五輪でも丹下健三設計の代々木競技場のような傑作を生んだ。しかし未来は暗いと言うほかありません。国際コンペでザハ案を選んでおきながら、首相が勝手にそれを白紙に戻し、日本人の案を選びなおす。そんな国を世界が信頼するでしょうか。
そもそも五輪を返上してもらいたいところですが、それが無理なら、いっそのこと、更地に戻った国立競技場や周辺の地域を草地に戻してはどうでしょう? 現代美術家・杉本博司の言うように、そこに白墨で線を引き、走ったり跳んだりすればいい。
簡単な仮設の観客席に収容できる観客だけがそれを観ればいいどうせ世界の観客はTVやインターネットで観ることになるのだから。それくらいラディカルなことができれば、世界も「日本というのはなかなか面白い国だ」と思うかもしれません。
●浅田彰(あさだ・あきら)/京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。現在、京都造形芸術大学教授。1983年に出版された『構造と力―記号論を超えて』がベストセラーに。1980、1990年代の思想界を牽引した。
※SAPIO2015年2月号