ライフ

【書評】楯の会随一のヘタレ会員だったノンポリ早大生の45年

【書評】『三島由紀夫が 生きた時代 楯の会と森田必勝』村田春樹著/青林堂/1400円+税

【評者】平山周吉(雑文家)

 エンタメ小説『命売ります』(ちくま文庫)がバカ売れしているという。三島由紀夫はいまだに生きている。その不死身な生命力は驚くべきであり、三島のあの哄笑が聞こえてくるようだ。

「楯の会」最年少会員だった村田春樹の『三島由紀夫が生きた時代』には、行動家として「死」を選んだ三島の遺志が生きて蠢いている。本書からは、三島の檄文と市ヶ谷の自衛隊バルコニーからの絶叫が耳に谺(こだま)してくるようだ。

 村田はごく普通の早大生だった。ナンパなノンポリで、ビートルズとストーンズが好きな長髪族。それが学内のタテカンで人生が変わる。「三島由紀夫と自衛隊に行こう!」。電話をすると応対したのは、「学生服で角刈りの童顔の青年」だった。三島と共に自決する楯の会学生長・森田必勝である。

 三島の本は読んだことはなかった。愛読書は大江健三郎。入会面接で三島に向かって「三島先生が最も嫌いな作家」の名を挙げてしまう。三島はあきれ顔だったが、森田の推薦が効いて合格する。かくして「楯の会随一のヘタレ、怯懦、弱卒」が誕生する。蹶起の日までは、十か月弱しかない。

 三島先生は本気だ、自分は腹を切れない。村田は退会を申し出る。森田は「俺だっていざとなったら小便ちびって逃げるかも知れない」とヘタレを優しく説得する。蹶起直後に、村田はその言葉を思い出す。「森田さんは私を含め楯の会残余会員を代表して蹶起し、身代わりに逝ったのだ」。半世紀近く、ずっと何度でも思い出すのがあの言葉だった。

 生保会社を定年退職して数年がたち、元楯の会という経歴をやっと告白できるようになって、この本は書かれた。フツー度が高かった一兵卒から見た一九七〇年は、特異でもあり、ありふれてもいる。森田必勝は布施明になりきって歌う青年でもあった。そんなエピソードと後日譚が飾らない筆で書かれていて、興味は尽きない。

 村田は息子を自衛隊に入れた。自衛隊の現実を知るにつけ、村田の自衛隊への違和感は膨らむ。

※週刊ポスト2016年1月15・22日号

トピックス

CM露出ランキングで初の1位に輝いた今田美桜(時事通信フォト)
《企業の資料を読み込んで現場に…》今田美桜が綾瀬はるかを抑えて2025年「CM露出タレントランキング」1位に輝いた理由
NEWSポストセブン
亡くなったテスタドさん。現場には花が手向けられていた(本人SNSより)
《足立区11人死傷》「2~3年前にSUVでブロック塀に衝突」証言も…容疑者はなぜ免許を持っていた? 弁護士が解説する「『運転できる能力』と『刑事責任能力』は別物」
NEWSポストセブン
アスレジャー姿で飛行機に乗る際に咎められたそう(サラ・ブレイク・チークさんのXより)
《大きな胸でアスレジャーは禁止なの?》モデルも苦言…飛行機内での“不適切な服装”めぐり物議、米・運輸長官がドレスコードに注意喚起「パジャマの着用はやめないか」
NEWSポストセブン
(左から)小林夢果、川崎春花、阿部未悠(時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫の余波》女子ゴルフ「シード権」の顔ぶれが激変も川崎春花がシード落ち…ベテランプロは「この1年は禊ということになるのでしょう」
NEWSポストセブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
小磯の鼻を散策された上皇ご夫妻(2025年10月。読者提供)
美智子さまの大腿骨手術を担当した医師が収賄容疑で逮捕 家のローンは返済中、子供たちは私大医学部へ進学、それでもお金に困っている様子はなく…名医の隠された素顔
女性セブン
英放送局・BBCのスポーツキャスターであるエマ・ルイーズ・ジョーンズ(Instagramより)
《英・BBCキャスターの“穴のあいた恥ずかしい服”投稿》それでも「セクハラに毅然とした態度」で確固たる地位築く
NEWSポストセブン
北朝鮮の金正恩総書記(右)の後継候補とされる娘のジュエ氏(写真/朝鮮通信=時事)
北朝鮮・金正恩氏の後継候補である娘・ジュエ氏、漢字表記「主愛」が改名されている可能性を専門家が指摘 “革命の血統”の後継者として与えられる可能性が高い文字とは
週刊ポスト
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「箱わなで無差別に獲るなんて、クマの命を尊重しないやり方」北海道・知床で唱えられる“クマ保護”の主張 町によって価値観の違いも【揺れる現場ルポ】
週刊ポスト
火災発生後、室内から見たリアルな状況(FBより)
《やっと授かった乳児も犠牲に…》「“家”という名の煉獄に閉じ込められた」九死に一生を得た住民が回想する、絶望の光景【香港マンション火災】
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン