シンは、2度目の来日となった同年11月、新宿・伊勢丹前の路上で、倍賞美津子夫人といっしょにショッピングをしていた猪木を襲撃するという前代未聞の“事件”を起こした。
テレビカメラもスポーツ新聞のカメラマンもいない場所での乱闘だったため、このシーンの“証拠写真”は1枚も残されていない。
しかし、近くにいた通行人が通報して警察官が出動する騒ぎとなったため、そこで何かが起きたこと、そして、この“事件”によってシンの知名度が全国区レベルのものになったことはまぎれもない事実だった。
当時、プロレス中継に関係していたテレビ朝日の元社員、すでに定年退職した元専門誌記者も、この事件の真相については「いまだに(ほんとうかウソか)わからない」と口をそろえる。
“新宿・伊勢丹前の乱闘事件”は、日本のプロレス史のなかの解明されていないミステリーとして、いまも語り継がれている。
●さいとう・ふみひこ/1962年東京都生まれ。プロレス・ライター、コラムニスト。プロレスラーの海外武者修行にあこがれ17歳で単身渡米。1981年より取材活動。『週刊プロレス』創刊時からスタッフ・ライターとして参画。『ボーイズはボーイズ』『みんなのプロレス』など著作多数。専修大学などで非常勤講師。
※週刊ポスト2016年2月5日号