安倍政権は希望出生率「1.8」を打ち出した。実際の出生率1.42(2014年)を考えれば、いかにそのハードルが高いか分かるだろう。元日本産科婦人科学会理事長の吉村泰典氏は2人目の壁、つまり“2人目の子供を作りたいと考える夫婦の前に立ちはだかる障壁”を突破するには、社会・企業・男性の意識改革が必要だと力説する。日本は海外に比べると、とりわけ2人目を産めるような社会基盤が整っていないと言う。吉村氏が、解説する。
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ここ数年で、子育て支援のための施設や制度作りは急激に進みました。保育園は増設されているし、その保育料も2人目は半額になり、3人目は無償とすることも検討されています。しかし、2人目を産むことを躊躇している女性が多いとすれば、社会の意識が変わっていないことも原因の1つでしょう。
ヨーロッパの国々もかつて、出生率が日本並みに落ちたことがありました。スウェーデンやイギリス、フランスがその時にどうしたか。彼らは女性が子供を産んでも働けるような職場の環境を一生懸命つくり、保育料や教育費にはお金がかからないようにしました。GDP(国家予算)の3%を子育てに対して投入してきたんです。
これに対し、日本はいまだにGDPの1%しか子育てにお金を使っていません。残念ながら、日本には社会全体で子供を育てるという意識が希薄なんです。
そしてもう1つ、結婚をめぐる社会の意識改革も必要です。日本では98%が婚内子です。要するに、結婚をしていないと子供を産まないんです。
一方、ヨーロッパでは婚外子が50%を超える国はたくさんあります。こうしたことの重要性は、日本の中絶の数の多さを見てもわかります。1年間に18万件――この中には、産みたくても産めない人も多いと思うんです。もしも社会が認め、子供を育てるのに経済的な不安がなければ、若い女性も産んでくれるはずです。
実は育児休暇があるのは日本だけ。海外では、産休だけ取って、みんな働くんです。それは要するに、育休を取らなくても働いて、子供を育てられる環境があるということです。
例えば企業に保育所をつくったとして、今の混雑した電車では子供を連れて来られません。だったら車両を1両、バギーと車いすの専用車両にすればいい。それはあくまで一例ですが、社会の意識が変われば女性が子供を産みたい社会になり、必ず出生率は上がると信じています。
※女性セブン2016年2月11日号