国際情報

ニカラグアで12年の獄中生活を送った日本人の告白(3/4)

大使館からの差し入れが始まってからつけた獄中「家計簿」

 中米・ニカラグアで、身に覚えのない罪状で12年間も投獄され、現在再審請求中の服部重次氏(67歳)の体験談レポート第3回。前回は現地にナマコ加工場を建設しようと考え、視察に訪れた服部氏の目の前に、加工場建設のためのリサーチ業務を請け負っていた日本人・M氏の遺体が現れたところまでをお伝えした。服部氏は、その「犯人」として扱われることになる──。

 * * *
 服部氏とロブスター加工場の管理人、そして第一発見者のニカラグア人は、夜が明けるまで、M氏の遺体に寄り添っていた。そして陽が昇ると、ニカラグア警察が現れたが、相変わらず、英語は通じなかった。

「『ジャパニーズ・エンバシー(日本大使館)』などと言っても、警官には無視されました。パスポートは事務所に置いてきていたので、私には身分を証明するものもありません。手錠はかけられませんでしたが、パトカーの中に入れられ、海岸で警官たちが現場検証を行っている様子を眺めているしかありませんでした」

 現場検証やM氏の遺体の回収が終ったのは午後4時前後だったという。それから、服部氏はパトカーに乗せられ、市内のリバス警察署へ連れて行かれた。

「ニカラグアに到着したばかりだったので、私には土地勘もなく、1時間近く走って、連れて行かれたのがリバス警察署だということも、最初は分かりませんでした。もちろん、それが警察署であるということは、すぐに分かりましたが……」

 警官は服部氏を小部屋に案内した。四畳半ほどだったというその部屋には一脚の長椅子が置かれていた。

「ドアに鍵をかけられたわけでもなく、ただ、警官は私を置いていきました。しばらくすると、トイレに行きたくなったので、部屋を出ましたが誰かが私を止めるようなこともありませんでした。そのときに思っていたのは、事情も分からないまま警察署を出てしまうよりも、ここでじっと待っていれば、日本大使館が来てくれるのではないかということでした」

 夜になると、服部氏を連れてきた警官が来て、ガジョピント(豆入りの炊き込みご飯)を置いていった。服部氏は、長椅子で眠るしかなかったという。翌日になっても誰かが服部氏を訪ねてくることはなく、警官による取調べも行われなかった。朝昼晩の三食、ガジョピントが出ただけだったという。

「後に分かったことですが、この時点で、私は『容疑者』というわけではなかったようなのです。司法が未成熟なニカラグアでは、事件が起きると、その場にいた人間や関係のありそうな人間を全員、警察署に連れていってしまうケースが多々あると教わりました。そのため、ロブスター加工場の管理人や、第一発見者のニカラグア人も別の小部屋に連行されていたようなのですが、警察署の中で出会うことはありませんでした」

 状況が急変したのは、長椅子だけの小部屋で2泊目を過ごした後、翌3日目の早朝のことだった。

「警官がやってきて私を起こし、部屋を出るようにというジェスチャーをしました。それから別の部屋に連れて行かれたのですが、今度はまるで様子が違います。鉄格子の窓に6台の2段ベッド、肥溜めのトイレと石の洗面台。その部屋に私を入れたあと、警官はドアに外鍵をかけました。もう、私には何が何だか、まるで分かりませんでした」

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン