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購入した住宅が事故物件なら返金要求は可能か 弁護士見解

 昨年、横浜市の大型マンションの杭打ち工事で不正が行われていた事件は、改めて物件選びの難しさを考えさせられる契機となったが、やっとの思いで手に入れた住宅がワケありのいわゆる「事故物件」だった場合、不動産会社に返金を要求できるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。

【相談】
 昨年末、中古の建売住宅を購入したのですが、ご近所の様子がおかしいので理由を調べたところ、前の持ち主が家で首吊り自殺を図ったらしいのです。この物件を紹介した不動産会社は、事故物件だと教えてくれませんでした。こういう場合、不動産会社に購入金額の全額返金を請求できるのでしょうか。

【回答】
 居住用で購入した建物が自殺で「住み心地の良さ」を欠くことは、「建物は継続的に生活する場であるから、建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に原因する心理的欠陥も瑕疵(欠陥)にあたる」と解されています。

 買い主が瑕疵(かし)のあることを知らず契約したときに、売り主は瑕疵担保責任を負い、契約目的が達成できない瑕疵であれば、契約解除されますし、その程度に至らない場合には、買い主の損害を賠償する義務を負います。

 そして、自殺があったことで「住み心地の良さを欠き、居住の用に適さないと感ずることに合理性があると判断される程度」の場合には、契約解除できるとする裁判例もあります。

 手付金を払った段階で6年前の自殺が判明したマンション売買の解除を認めた事件です。その反面、7年前の自殺による解除を否定した事例もありますし、古家を取り壊す計画の売買では、建物撤去で2年前の自殺による嫌悪の程度は瑕疵とはいえないとした例もあります。

 あなたの場合、自殺の時期や、その話題性の程度によっては、契約を解除でき代金全額の返還請求ができる可能性があり、そこまでいかなくても、自殺建物の客観的評価と売買代金額の差額の損害賠償請求が検討できます。

 宅建業法が仲介業者に説明を命じる重要事項には、自殺等の建物の経歴は含まれませんが、業者は買い主の契約の決断を左右する重要な要素となる自殺を知っていれば、説明する信義則上の義務があり、黙っていれば、賠償責任が生じます。もっとも、何時までも説明義務を課すのも疑問で、売買は5年、賃貸は3年という指導もあるようです。

 いずれにせよ、中古建物を購入する際には、その来歴等についても質問すべきで、嘘をいった売り主には、説明義務違反の債務不履行責任も追及できます。

【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。

※週刊ポスト2016年2月26日号

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