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受験に失敗し、今なお絶望的な気持ちでこの文を読む人へ

 2例とも、事件をおこした高校3年生や47歳の母親は、専門医が診察したらきっと何らかの病名がつく精神状態だったのだろう。けれども、診断名がついて、特殊な事例ですね、ということで終わらせてはいけないと思う。プライバシーの保護の観点からか、事件の大きさに比べ報道はそんなにされていないのだが、もっと詳細が伝えられ、もっと専門家の議論が交わされ、もっと世間の注目を浴びていいと思う。

 滋賀の高校生はもし受けた大学入試に全落ちしていたとしても、先述したように浪人の選択肢があったはずだ。相模原の母親の場合、私立併願校の合格も意味がなくなってしまっている。

 両者とも極端に視野が狭窄している。受験が目的化し、白黒思考、受かるか落ちるかのオールオアナッシング思考が、「こんな世界、消えろ!」と半径数メートルの世界の殲滅を要請してしまったのだ。

 受験は成長の機会としてバカにできない。けれども、それと同時に、入試の合否なんてたかがペーパーテスト数枚の出来不出来の問題だ、という突き放した距離感で受験に向き合う必要がある。

 いい中高一貫校や、いい高校に入れば、いい大学に入りやすく、いい大学に入れば、いい就職をしやすい。それはたしかに現実だから、学歴なんて関係ないといった無責任なことは言わない。しかし、最終ゴールかのように多くが思っている「いい就職」をしたって、その後の「いい人生」が保障されるわけでは全然ない。こうしてわざわざ文字にすることがバカらしくなるほど当然の話だが、受験の渦中ではそうした長期的な見通しでもの事を考えられなくなるから怖い。

 今回の受験に失敗し、今もなお絶望的な気持ちでこの文を読んでいる子供や保護者がいたら、高層ビルを昇りましょうと提案したい。近隣の一番背の高いビル、できれば30階以上のビル、高さ150メートル以上のタワーの最上階までエレベーターで上がるのだ。

 そのガラス窓からは街が一望できるだろう。足元を見てほしい。車がミニチュアみたいで、人間が蟻んこのようになっているはずだ。じっと見ると蟻んこも動いている。でも、その動きから蟻んこが何を考え、何をしたいのかまでは分からない。そして、あなたがその場にいたとして、誰かが最上階から足元を見下ろしたら、あなたもやっぱりただの蟻んこだ。

 そんなふうに下界を見てみると、みんなちっぽけで、地上の喜びも苦しみも、ほんとうに取るに足らない話だなあ、と思えてくる。自分がどんなに嘆こうが、最上階と同じ高さを飛ぶ鳥たちは気にも止めていない。だったら、自分の絶望だって鳥瞰的にはどうでもいい話で――というふうに気が楽になるから、私は高層ビルを昇ることがある。凹んだときにお勧めである。

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