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普通の日常に差す不穏な影を描く 漫画家・太田基之短編集

【マンガ紹介】『太田基之傑作短編集』太田基之/小学館/750円

 なんでもない毎日。それって幸せなのでしょうか、退屈なのでしょうか。いや、そもそも、なんでもない毎日なんてあるんでしょうか…。

 空き地で拾った石がネットオークションで5万円で落札された。引き取りに来たのは美しい女で…(「石を買いに来た女」)。購入した古本に挟まっていた写真の女を巡る話(「ふりむかないで」)など、この短編集では、普通の人々の日常にふと差す、不穏な影が描かれていきます。

「神様が見てるなら」は夫婦の話。毎朝妻を仕事に送り出し、主夫業に励む、売れないマンガ家。喫茶店のマスターに人妻デリヘルの良さを力説された日に、女物の財布を拾い、その金でデリヘル体験を果たします。財布の中身から、落とし主はそのデリヘル勤務の誰かのものではないかとあたりをつけつつ家に帰ると、妻がひとこと。〈私、今日お財布落としちゃったみたいなのよ…〉。あれは妻の財布か? 妻はデリヘル嬢なのか? マスターの相手をした人妻は自分の妻なのか…?

 オチを言ってしまうと、事実はすべて男の想像通り。けれどあわや!? の鉢合わせも回避し、結局二人とも何も知らず、知らせずに爆弾を抱えたまま、ラストは、夫婦の夕食風景へ。マンガの新作について〈「やっぱさ ラストはハッピーエンドだよな。」「そう いいわね ハッピーエンド。」〉。

 ほかの短編でも爆弾は爆発せず、(表面上は)なんでもない日常が続いていきます。ブラックでもシニカルでもなく、「ま、そんなもんスよね」という半分希望のような半分諦念のような、妙な明るさに満ちた作品群。なんでもない毎日に倦んでいるあなたに、ぜひ。 (文/門倉紫麻)

※女性セブン2016年3月10日号

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