国際情報

インドネシア高速鉄道 中国案採用要因は費用と利益

高速鉄道事業に関する公開討論会(右から2人目がリニ国営企業相)

 日本が中国に敗れたインドネシアの高速鉄道受注。ジャカルタ・バンドンの約140kmを結ぶこの路線は当初、中国はすぐに工事に着手し、3年以内の完成を宣言したが、2月半ばになっても工事が始まる気配がない。その当時の様子をノンフィクションライター・水谷竹秀氏が現地からレポートする。

  * * *
 2月中旬、バンドンの高級ホテルでは、高速鉄道事業に関する公開討論会が開かれた。インドネシア政府関係者や住民ら数百人が集まる中、事業の中心人物の一人、リニ国営企業相はステージ上でこう高らかに宣言した。

「中国案と日本案については検討を重ねた上で中国案に決めた。それは国家予算を支出しなくて済むからだ。大都市間を結ぶ高速鉄道によって社会と経済開発に貢献したい」

 インドネシア政府は昨年9月、それまで濃厚だった日本案(事業費約62億ドル)から一転、中国案(同55億ドル)を採用し、日本のODA(政府開発援助)史上、初の「日中ガチンコ勝負」で敗北を喫した。

 中国案が採用された決定的理由は「政府保証がない」ことだ。つまりこの鉄道事業に関してはインドネシア政府が財政負担を一切負わず、事業主体の合弁企業が調査、建設、運営を一手に引き受け、50年後に政府へ移譲するという破格の事業計画だった。

 公開討論後私は、会場を足早に立ち去るリニ国営企業相を追い掛け、一部で懸念の声が上がっている中国製品の安全性について疑問をぶつけた。するとリニ国営企業相は立ち止まり、こう説明した。

「もちろん乗客の安全が第一。日本は世界で最初に高速鉄道を完成させ、どの国にもまして高品質なのは誰もが認める。しかし、費用と利益の問題は常に考えなければならない」

 世界最高水準の日本の技術でも、目先の利益には歯が立たなかったということだ。

 ただし、討論会に参加した女性教師は「日本人は几帳面で真面目。がさつで荒っぽそうな中国人が作る鉄道は安全面で心配。実際、ジャカルタで中国製のバスがいきなり燃え出す事故もあるの」と語り、不安な表情を浮かべた。

 実際に利用する市民の声は無視され、政府間の利害関係だけで交渉が妥結された印象は拭えない。

※SAPIO2016年4月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン