ビジネス

『ヤクザと憲法』P 「視聴者は美談なんて期待してない」

東海テレビプロデューサーの阿武野勝彦氏

 異端のテレビマンが、名古屋にいる。連日劇場を満席にするドキュメンタリー映像作品『ヤクザと憲法』を手掛けた東海テレビのプロデューサーであり、過去、数多の問題作を世に送ってきた阿武野勝彦氏(57)である。衒いなきテレビマンの言葉は、日本社会の歪みを静かに浮かび上がらせる。(聞き手=中村計・ノンフィクションライター)

 * * *
『ヤクザと憲法』は、取材班にとって最高の「修羅場」だったかもしれない。事務所内にあったキャンプ用具を見て「マシンガンですか?」と聞くシーンがある。

──撮影中、突っ込み過ぎて、本当に鉄砲が出てきちゃったらどうしようみたいな心配はなかったのですか。

「ぼくたちがやっているのは“手ぶらドキュメンタリー”ですから。最初に筋書きを考えるというのは、大枠の自主規制じゃないですか。もし犯罪シーンに出くわしたら、その時はその時で考える。でも、彼らも“寸止め”してくるんですよ」

──寸止め? でも、映画の中には、あやしげなブツの売買シーンや、高校野球を見ながら札束を封筒に入れるシーンが出てきますよね。

「どんなに食らいついても、彼らは、これは覚醒剤だよとは言わない。野球賭博らしきシーンについても、賭博開帳図利罪は、賭ける側と胴元、両方そろわないと成立しないので、あのシーンだけでは立件できない。彼らがそれをわかっていたかは不明ですけど、常にぎりぎりを見せてくるんですよ」

 そうした事実にこだわりつつも、一方では、あまりにも出来過ぎたシーンは捨てると話す。

「最終的に、どうだ、みたいな映像を見せなくて済むのは、時間をかけた余裕でしょうね。『ヤクザと憲法』も百日も通っていますから。これは臭いから見せないでおこう、とかができる。

 いつも狩猟型ではなくて、農耕型取材をしようって言ってるんです。時間をかけて種を植え、水をまき、刈り取る。テレビマンって、獲物をバーンと撃ってやるんだみたいな感覚に陥りがちじゃないですか。そうじゃなくて、状況の中にカメラを持ち込んで、その中を漂ってみればいい。時間だけはたくさんあげるから、と」

関連キーワード

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン