さまざまな部署を渡り歩き、さまざまな角度から物を眺めることができるせいだろう、阿武野の発言はテレビマンとしては異色かもしれないが、一般人に当てはめれば「真っ当」だ。
「視聴者がいい物語を求めていると決めつけているからでしょうか、ドキュメンタリーが均質化している。地方局のドキュメンタリーの祭典があるのですが、もっとも多いテーマは障害者を題材とした作品です。ハンディを持つ人間を励ましたいというより、励ましてる自分が好きなんじゃないの? って思ってしまう。
『ヤクザと憲法』なんて、全然いい話じゃないのに見たい人がいっぱいいる。視聴者は、事実を見たいんじゃないですか。美談なんて期待してないということに気がつかないと、ドキュメンタリーは時代に取り残されていってしまうと思いますよ」(文中敬称略)
■あぶのかつひこ/1959年生まれ。同志社大学文学部卒。1981年東海テレビ入社。アナウンサーを経てドキュメンタリー制作。主なディレクター作品『村と戦争』『約束~日本一のダムが奪うもの~』、プロデュース作品に『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』『ホームレス理事長 退学球児再生計画』など。日本記者クラブ賞(2009)、芸術選奨文部科学大臣賞(2012)を受賞。
※SAPIO2016年4月号